作品タイトル不明
第855話 稲荷さんの用事の話
稲荷さんが警察署に迎えに来てくれた頃には13時を過ぎていたので、途中で道沿いにある和風のファミレスに入って昼食をとることにした。
ランチタイムということもあって、そこそこ混んでいる。賑やかな店内のBGMはお正月感満載だ。
私の免許更新は問題なく済んだのだけれど、テーブルを挟んで向かい側に座っている稲荷さんは、かなりお疲れめなご様子。
「面倒な用事だったんですか?」
メニューの載っているタブレットを見ながら、稲荷さんに聞いてみる。
「……はぁ。まぁ、そうですねぇ」
渋い顔でお茶の入った湯呑を手に取る稲荷さん。
メニューを選んでいる間に、稲荷さんの話を聞いてみると、大地くん絡みで こちら(日本) の神様の眷属が大地くんを気に入って、ストーカーまがいの状況になっているらしい。
一応、相手の上司にあたる神様のほうにも断りをいれているらしいのだけれど、それを聞く眷属ではないらしい。
何度も注意を受けているはずなのに、めげずにストーカーをしているそうだ。
「久々に大地の高校の寮まで行ったら、まぁ、澱んだ空気が漂ってること」
うへぇ、という顔の稲荷さんに、これは相当だったのだろう、と私でも察してしまう。
「ちょっとクレームを入れに立ち寄ったもので、少し遅くなってしまって、すみません」
「いえいえ。それほど待ったわけではないですし」
実際、私が免許を受け取ってから三十分ほどで迎えに来てくれたし、警察署の中は寒くはなかったので、その程度なら待てる時間だ。
待たせたお詫びにと、稲荷さんがおごってくれると言うので、お正月限定メニューの少しお高めの和定食を頼んだ。
料理を待っている間に、再び眷属の話を聞く。
「大地は私の跡を継ぐことになるので、こちらで相手を探してもいいんですがねぇ」
「えーと、普通の人が相手でもいいんですか?」
「ん~、寿命の関係もあるんでねぇ。大地も相手も辛い思いをするのが目に見えているのを考えると、あまり勧めたいとは思いませんがねぇ」
稲荷さんも、かつて普通の人間の女性と結婚してたことがあるらしい。かなり昔らしく、その人は若くして亡くなったそうで、詳しくは教えてもらえなかった。
「だったら、眷属というのは」
「まぁ、同族であればお互いのことを理解しあえる面はありますがねぇ。今回は相手が悪い」
「相手……」
「……ええ。蛇なんですよ」
ズズズッとお茶を飲んだ稲荷さんが、うんざりしたような顔になる。
蛇は嫉妬深く、独占欲が強くて、蛇の神様の相手になった男たちは、軒並み短命で終わっているらしい。
「今の相手も、よくまぁ、続いていると思いますよ」
稲荷さんが呆れたように言う様子に、私もゾワゾワッとしてしまう。
大地くんの相手は神様ではないものの、似たような蛇の眷属なわけで、かなりの執着をしていると思われる。
――頑張れ、大地くん。
心の中で応援していると、頼んだ料理が届いた。
かなりのボリュームに、大地くんのことはすぐに忘れて、ニンマリと笑みを浮かべる私であった。