軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第849話 着物姿の稲荷さん

ユキやハクといった、ビャクヤの子供たちへのお年玉という名の贈答用のハムの争奪戦は、ユキやウノハナ、シンジュといった女の子チームの勝利で終わる。

そうは言っても、ちゃんと男の子チームにも渡してあげたけど。

今年の村の子供たちへのお年玉は、しっかりポチ袋を買っておいたので、その中に紅白の紐を通した五円玉と、 こちら(異世界) でちょっとした買い物が出来るような小銭を入れて渡した。

五円玉自体は こちら(異世界) では価値のない貨幣だけど、縁起物だ。ガズゥたちの喜ぶ笑顔が見られたので、私も嬉しかった。

元日は多少ドタバタしたものの、三が日は比較的のんびり過ごした。

そして四日の朝、稲荷さんがやってきた。

「おはようございます~」

稲荷さんの声にドアを開けると、ここが異世界なのを忘れさせるような、濃紺の羽織りに着物としっかり和風な稲荷さん。紋付の紋が稲穂に狐の顔というのは、面白い。

「お、おはようございます」

私は半纏の下にはいつものセーターにジーパンとラフな格好。お正月感はまったくない。実際、生活は普段通りになっている。

それよりも、外は吐く息が白いのに、稲荷さんは羽織りだけで寒くないのだろうか。

「あけましておめでとうございます」

「あ、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

お互いにペコペコと新年の挨拶をしたところで、稲荷さんがニコリとしながら話を切り出す。

「餅つきの用意をしてきましたので、うちの眷属たちが村に入れるようにお願いに来ました」

「え、でも、稲荷さんだったら勝手にできるんじゃ」

「いやいやいや、そこはちゃんと持ち主に許可をいただかないと……(イグノス様の面子もありますしね)」

最後はこそっと言う稲荷さん。

「ああ、なるほど」

神様同士、一応、お互い気を遣うところはあるようだ。

「なになに……稲荷、なんだその格好」

「あ、ほんとだ」

「……めぇ」

私の後ろから顔をのぞかせるノワールとマリン、それにセバス。

「失礼な。これは私の世界では正装の一種なんですよ」

「そうよ。それ、結構、いい着物ですよね」

「おお、わかりますか!」

「昔見た、成人式の時に集まった男の子たちのペラペラしたのに比べたら、相当いいじゃないですか」

私の記憶にあるのは、白い羽織りに縞模様の袴を履いた若者たち。皆、揃いで着ていて、なんだあれ、となったものだ(遠い目)。

そもそも、紋付の着物ってだけで、いい着物だと思うのだ。

「……望月様、あんなレンタルのようなのと同じにしないでください」

「あ、ごめんなさい」

さすがの稲荷さんも、眉をひそめている。

これ以上稲荷さんの機嫌を損ねないようにと、私たちは急いで村へと向かうことにする。

私はしっかり厚着をした上で、いつも通りのスーパーカブ。山の中の冷たい空気をかっ飛ばしている。鼻水が出そうになるくらい寒い。

それよりも、私の目の前を《《歩いている》》着物姿の稲荷さん。

――どうやって歩いてるんだろうなぁ。

歩いて見えるのに、あのペースはおかしい。スーパーカブが追い越せないのだ。おかしいけど、そこは神様だからなんだろう。

同じようなペースで《《走っている》》ノワールたちのほうが、まだ自然だ。

――さすが異世界クオリティ。

遠い目になりながら、私は獣人たちの村へと向かった。