作品タイトル不明
第840話 先代フェンリルとジーン
村の門前には、久しぶりに見るビャクヤたちの姿があった。
ビャクヤは前とあまり変わっていないように見えるけど、ハクはビャクヤと変わらない大きさに育っている。
スノーとムクはビャクヤたちより一回り小さいか。それでも旅に出る前に比べればムクは大きくなったようだ。
そして彼らの前にちょこんと座る一匹のフェンリル。
彼が白狼族の先代フェンリルということだろう。ビャクヤより少し小柄で似たような白い毛並みだが、違いは目の色。
ビャクヤやハク、ムクは金色の目、スノーは濃紺の目なのに、このフェンリルは赤いのだ。
――白い毛に赤い目なんて、ウサギかよ。
内心、ツッコミを入れる。
そのフェンリルが、私に気付いたようで。
『おお、こちらが聖女殿であるかっ!』
嬉し気に尻尾をブンブン振り回す姿は、ハクやムクと変わらない気がする(遠い目)。
「む? 聖女?」
甲高い声の主が眉間に皺をよせながら私に目を向けてきた。
生成りのシャツに少し丈の短くなった感じの革のパンツと、この季節には寒すぎる格好。
獣人たちが頑健なのは知っているけれど、見ている私のほうが辛い。それも、テオとたいして年が変わらないように見えるから、余計に可哀想に見えてくる。
顔立ちは女の子にしてはキツい感じだけれど、大人になったらクールビューティと呼ばれるような美女になりそうだ。
そして、ガズゥと同じような銀髪のおかっぱ頭にフェンリルと同じ赤い目。
――アルビノ?
肌も白いのもあってか、一瞬、そう思ってしまう。
「こら、ジーン。ちゃんと挨拶をしないか」
ネドリさんの声に、ビクッと身体を震わせて、ジーンと呼ばれた子供が渋々といった様子で頭をペコリと下げる。
『ネドリ、我が養い子に厳しいのぉ』
「人としての礼儀です」
『むぅ……それよりも、聖女殿! 私たちも村に入れてくれ!』
「そうだぞ! フェンリル様をお入れしろっ!」
フェンリルはおねだりのように言ってくるのに、ジーンと呼ばれた子は偉そうに言う。
「そういうとこだぞ」
「痛いなぁ」
ポカリとガズゥがジーンの頭を殴ると、殴られたところを撫でながら不服そうに言うジーン。すっかり大人と変わらない背丈のガズゥが殴るのだ。それは痛いだろう。
「ちょっと、ガズゥ、女の子の頭を殴るとか、ダメだよ」
慌てて駆け寄る私。たとえ、不躾であっても、暴力はいかん。と思ったのだけど。
「サツキ様、そんな甘やかしてはダメです。ただでさえ、『フェンリルの養い子』と村で特別扱いされていて、図に乗っているのです」
「いや、でもさ」
「それに、何より、ジーンは女の子じゃないです」
「へっ?」
思わず、ジーンの顔を見る。
――どう見ても女の子にしか見えないんだけど。
「でも、『あたし』って」
「ああ、ジーンは女ばっかりの中で育ったので、話し言葉がちょっと変なんです」
「マジか」
「マジです」
「マジって、なによ。ガズゥ」
私のお腹くらいまでしか背のないジーンを見下ろし、再び、マジかーと思う。
それよりも、『フェンリルの養い子』って何なんだろう?