作品タイトル不明
<キャサリン>
五月の村から無事に王都の屋敷に戻ったのは、夏休みが終わる直前だった。
祖父の前公爵は到着してすぐに、現公爵のキャサリンの父と話をしていたようだったが、すぐに公爵領へと戻っていった。
近いうちにエイデンが公爵領の屋敷のほうに肖像画を見に来るかもしれないからと、ウキウキしながら戻っていく姿に、キャサリンも呆れてしまった。
久しぶりに学園に到着して馬車から降りると、いつものように王太子(3年生)がにこやかに出迎えてくれた。
「おはよう。キャサリン」
「おはようございます。アラン様」
王太子の差し出した腕に手を回し、一緒にキャサリンの教室へと向かう。
「『神に愛されし者』の村は、どうだった?」
「ええ。とても楽しく過ごさせていただきました」
満面の笑みを浮かべたキャサリンに、王太子も顔がゆるむ。
――王家の避暑地にいた頃の顔色の悪さが嘘のようだ。
夏休みに入る前から調子が悪そうに見えていたキャサリンのことを、王太子も心配していたのだ。
「この髪飾りは? ガラスかい?」
キャサリンの髪を飾るバレッタに目がいく王太子。今日髪に飾っているのはブルーの花がついているバレッタだ。
「ウフフ。これはサツキ様にいただいた物なんです。あ、後でアラン様にお土産がございますのよ」
「あの村のかい?」
「フフフ。それよりも、アラン様のほうはいかがでした?」
「あー、それは、昼休みにでもゆっくり話そう(本当は思い出したくもないけど)。もう教室だ」
一瞬苦い顔をした王太子に、コテリと首を傾げて不思議そうな顔をするキャサリン。
――くー! やっぱり、俺のキャサリン、可愛すぎるっ!
心の中で身悶えている王太子だが、気が付けばキャサリンの教室の前まで到着していた。
名残惜しそうな王太子だったが、キャサリンは教室の入り口で別れて中に入ると、仲良くしている女子生徒たちが出迎えてくれた。
「おはようございます。キャサリン様」
「おはよう」
にこやかに挨拶をかえすキャサリンだが、教室の中の人が少しばかり減っているように感じた。その中でも、いつもなら出迎えてくれる友人の一人の姿が見当たらない。
「ビビアナさんは?」
伯爵家の令嬢のビビアナは、キャサリンが仲良くしていた女子生徒の一人だ。
「ああ、実は……」
友人たちが声をひそめてキャサリンに教えてくれた。
ビビアナは夏休み中に酷い皮膚病を患ったとかで、完治するまでは休学することになったとか。
他にも何人かの女子生徒が怪我や病気、酷い者だと精神を病んでしまった者も出ているらしい。
「それに、お家のほうも大変らしくて」
不正や脱税が発覚した家や、人身売買の疑惑を持たれた家も出てきていて、学校に通えなくなった者も出てきている。
「そういえば、教会のほうも大変なようですわ」
多くの司教や司祭、それに連なる者たちに不審死や行方不明者が相次いでいるらしい。
「まぁ、怖い」
「ええ。呪いじゃないかって、皆さんで話していたところなんですのよ」
「呪いですか」
「はい。そうでもないと不可解なことが多すぎるんですって」
「嫌ですわ」
女子生徒たちが顔を青ざめながら話している中、キャサリンは村にいた時のことを思い出す。
――そういえばサツキ様が、司祭様にもお札を差し上げるとおっしゃってたけれど。
まさかね? と思っているところに、予鈴が教室に鳴り響いた。
* * * * *
キャサリンの周りを飛ぶのは、お馴染み、三人の精霊たち。
教室の中に入る前は、若干澱んだ空気だったものの、キャサリンが中に入ったとたん、一気に空気が浄化された。
『さすが、サツキの作った髪飾り、威力が違うね』
『キャサリンを護るだけじゃなく、その場を浄化しちゃうんだもんなぁ』
『おかげで、私たちが楽できるんだから、ありがたいわ~』
五月の村に滞在していたおかげで、最初に人型に変わった時よりも一回り以上大きくなっている精霊たち。当然、力も強くなっている。
『お嬢さんたちの話だと、かなりの人数が返り討ちにあったみたいね』
『でも、あの司祭さんのところのほうが効き目がすごそうよ?』
『それだけ念の強い呪いだったってことだろ?』
『キャサリンの場合は、子供の嫉妬のようなものだもの』
『一番ヤバい奴ら(ゴンフリー侯爵家)は、もうとっくに自滅してるしね』
精霊たちは楽しそうに話すキャサリンを眺めながら、嬉しそうにふよふよと漂っているのであった。