軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第709話 公爵家、王都に帰る

アクセサリー職人のアビーに教えてもらいながら、王太子へのプレゼントを作っていたキャサリン。満足いくものが出来たと言って、見せてくれたのは、大きな黒い一粒の魔石とダークブラウンの魔物の革を編んでできたブレスレットだった。 あちら(日本) だったらカッコいいと思うのだけれど、 こちら(異世界) の貴族では受け入れられるものなのか心配。

ちなみに黒い魔石は、うちのダンジョン産らしい。かなり深い階層にいる魔物の魔石だそうだ。

キャサリン曰く、魔物の討伐にも行くという王太子を護ってもらえるように願いをこめたらしい。

この魔石にそういう力があるかはわからないけれど、私の目には小さな精霊たちがたくさんへばりついて見えるので、なんらかの力にはなってくれるだろう(遠い目)。

エクスデーロ公爵家一行がやってきて5日目。キャサリンにとっての夏休みの期間は、もう終わりだ。

短い滞在期間中、村の中にいたキャサリンは、のびのびと過ごせたようだ。

高位貴族のご令嬢としては褒められたことではないのだろうけれど、前公爵からも注意はされなかったし、侍女のマリアンも護衛のハンナも終始笑顔を浮かべていたので、問題なかったのだろう。

そういえば、うちの村の水や食べ物がよかったのか、公爵家一行が目に見えて元気になったのには驚いた。

何よりも驚いたのは前公爵で、村に来た当初は左足を引きずりながら、杖をついていたのに、今は颯爽と歩いて、エイデンの訓練にも参加していたという(さすがにエイデンも手加減をしたと思うけど)。

王都に戻る公爵家の馬車が、宿舎の前に並び、護衛の騎士たちも馬に乗って待機している。

「帰りたくないです」

すでに荷物も載せ終わった馬車の前で、キャサリンは寂しそうな顔をして立っている。

「来年、遊びにくればいいよ」

「また来てもいいのですか?」

「村の子たちも、楽しみに待ってるから」

「……ええ。来年はガズゥとも会えるかしら」

村に来た当初は、ガズゥが不在なのを聞いて、少しがっかりしていたようだった。女の子たちと過ごして気にならなくなったかと思ったのだけれど、違ったみたいだ。

「たぶんね。さぁ、皆さん、待ってらっしゃるから」

キャサリンはコクリと頷いて馬車に乗り込んだ。

「気を付けて!」

馬車がゆっくりと動き出す。

窓際でキャサリンが手を振っている。奥の席に座っている前公爵が穏やかな顔で、右手をあげて挨拶を返してくれた。

続々と馬車が宿舎の敷地から出ていくのを見送ると、私は大きくため息をつく。

「どうした」

隣に立って一緒に見送ってくれていたエイデンが、心配そうに聞いてきた。

「ん~。なんでもない」

ニコリと笑い、村のほうへと戻る私。

心の中で、キャサリンたちが無事に王都に戻れますようにと祈った。

* * * * *

キャサリンの乗る馬車が防風林を出たところで、薄っすらと細長い黒い靄がふよふよと漂ってきた。

『あらあら、諦めが悪い子がいるようねぇ』

『何度来ても、キャサリンのところまでは行かせないぞ』

『ねぇ、でも、せっかくサツキが作った守り札があるんだから、どんな効果がでるか、気にならない?』

『なんか、司祭様のところは爆散したらしいじゃない?』

『さすがだわ~』

キャサリンのミサンガに宿る精霊たちが、意地の悪い顔で話している場所は、まさにキャサリンが乗っている馬車の上。

するすると馬車の中に黒い靄が入っていくのを見送る精霊たち。

しかし、靄が入りきる前に、フッとすぐに消えてしまった。

『あ、根性なし』

『相手のほうはどうなったんだろう』

『王都に着いたらわかるんじゃない?』

フフフ、ハハハと精霊たちの吞気な笑い声に、馬車と並走する馬に乗っていた護衛のハンナが、青い顔で聞いていた。