作品タイトル不明
第689話 キャサリンの護衛
さすがにキャサリンたちが村に到着したばかりで、肖像画を見に行くというわけにもいかないので、近いうちにお邪魔します、ということにしてもらった。
ちなみに、肖像画はエクスデーロ公爵の領地にあるお屋敷にあるそうで、その領地は王都の北に位置しているらしい。普通の馬車なら領地からこの村まで、一ヶ月以上かかるらしい。
今回は、途中、同じ派閥で親戚でもある侯爵家の転移門を使ったので、半分の二週間ほどで来れたんだそうだ。
そういえば、去年の子たちは、辺境伯の転移陣を使ったと言ってたのを思い出す。あちこちにそんな便利な物があるのか、と思ったら、そんなことはなく、稼働させるのにも移動する量によって、使う魔力が変わってくるのだとか。
その魔力を保有できるような家でないと、使えないので、上級貴族でも、王家や公爵家くらいにならないと、自由には使えないんだそうだ。
――温泉行きのための転移の部屋は、バンバン使えてるけどね。
これは言ってはいけないことのような気がしたので、口をつぐんだのは言うまでもない。
「ガズゥはいないのかしら?」
キャサリンが村の中に入って、テオとマルと抱き合いながら、二人に聞いている。
「ガズゥはいま、ネドリさまといっしょに、 さとがえりちゅう(里帰り中) なんだ」
「なんだ!」
テオとマルの言葉に、ちょっとがっかりしているキャサリン。
今回、村の中に入るのを許可したのは、キャサリンとサリー、そしてサリーのママのマリアンさん、護衛のハンナさんの四人だけ。
前公爵は凄く入りたそうだったけれど、精霊たちの様子が、相変わらず微妙な感じなので、今回は遠慮してもらった。護衛で同行してきた騎士の一部が、文句を言ってきたけれどエイデンのひとにらみで、治まってしまった。さすが、エイデン。
ちなみに、護衛のハンナさんは、王家から派遣されてきている護衛だそうで、なんと、王太子の護衛で同行してた水の精霊がついてた人(アーサー・クロンメリン卿)の従妹。
『わーい! なかまがいっぱいだー!』
『へー、そとのやつにしては、なかなかおおきいな』
『えへへ』
彼女にも水の精霊がついていた。それも、クロンメリン卿が連れていたのよりも、大きく人型になっている。その精霊が、勢いよく仲間の精霊たちのところに飛び込んでいく。
「あ、あの、モチヂュキ様」
「はい」
「私の目がおかしくなければ、いろんな精霊がいっぱいいるように見えるのですが……」
「あ、おかしくはないです」
彼女は獣人やドワーフ、エルフたち村人よりも、精霊たちのほうが気になるようだ。
『おかしくないぞ?』
『きこえてるんだろ?』
「ひえっ!?」
彼女の肩に乗っているのは、風の精霊たち。
クロンメリン卿と違うのは、彼女には精霊も見えるし、会話もできていることだろう。
『こらー! ハンナはぼくとなかよしなのー!』
「プルン、落ち着いて!」
突撃してきた水の精霊を優しく受け止めるハンナさん。まさかの、水の精霊に名前までつけていた。
「ほお。王家もよい人間を護衛に選んだようだな」
エイデンの言葉が聞こえたのか、ハンナさんがピシッと背を伸ばし、胸に手を当てた。
「ありがとうございます! エイデン様」
「……《《ここにいれば》》安全だとは思うが、キャサリンを守ってやれよ」
「! はっ!」
エイデンの思わせぶりな言葉に、思わず眉間に皺がよる。
――また、彼女に何かあるっていうの?
楽しそうにテオとマルと話しているキャサリンの姿を見ると、心配になる。
「あのっ! 私もクロンメリン卿同様、稽古をつけていただけませんでしょうか!」
「ふん、他の者たちと一緒でも構わなければ」
「はいっ!」
やる気が漲っているハンナさんの姿を見ると、大丈夫そうな気もしてくる私だった。