作品タイトル不明
第687話 エクスデーロ家の家宝
前公爵に『肖像画』と言われて、首を傾げているのは、エイデン。
「肖像画なんか、描いてもらったの?」
「……そんなもの描いた覚えはないぞ」
エイデンは渋い顔で、前公爵のほうへと目を向けるけれど、前公爵は、至極真面目。
「もとは、私の曾祖母がエクスデーロ公爵家に嫁いできた時に、持参したものだった」
前公爵の曾祖母は、今はない小国の王家の姫の一人だったという。その曾祖母が持ってきた『肖像画』も、曾祖母が母親から譲り受けた物だったそうだ。話を聞くと、かなり古い物と思われる。
これくらい、と両手で示したサイズはB5くらいと、小さい物のようだ。
よっぽど大事だった物なのか、保存の魔法がかけられているそうで、いまだに色褪せていないらしい。門外不出ということで、その絵の存在を知っている者はいないらしい。
「タイトルが『 古龍(エンシェントドラゴン) と聖女』と言われる絵で、男女二人の並んで立っている絵なのだが」
ということは、人の姿のエイデンと聖女の肖像画なんだろう。
「子供の頃、我が家の宝物庫に入って見せてもらったのだ。普通、 古龍(エンシェントドラゴン) というからには、ドラゴンの姿を期待するではないか。なのに、描かれていたのは人の男の姿だったのだ。子供心に、ガッカリしたのを覚えている」
ふっ、と小さく笑った前公爵。
「私は、きっと、この男がドラゴンのように強かったから、そういう二つ名がある騎士かなにかと思っておった」
確かにエイデンを知らなければ、そういう解釈もあるかもしれない。
前公爵が改めてエイデンに目を向けて、言葉を続ける。
「その男の姿が、エイデン殿にそっくりなのだ。その、エイデン殿は、古龍と呼ばれた男の子孫、とかとは違うのか?」
「うん?」
「あまりにもそっくりなので、私も驚いた。肖像画が描かれた時期はわからないが、曾祖母の母から渡されたことを考えると、三百年以上前に描かれたはずだ。エルフやドワーフのような長命種でもなければ、その本人が目の前にいるわけ……!?」
前公爵の声が止まった。
「ふん、いつ誰が描いたかはわからんが、俺を描いた物かもしれんな」
そう言っているエイデンの瞳が、金色の爬虫類の目に変わっていた。ニヤリと、人の悪そうな顔で笑っている。
「ま、まさか(キャサリンが言っていたドラゴンが本当なのか!?)」
「ふーむ、俺を描いた物があるんだったら、一度は見てみたいな……そうだ! 五月、お前も聖女の姿を見てみたくはないか?」
「え」
前公爵が固まったままなのを放っておいて、エイデンはワクワクした顔をしている。
「いや、宝物庫に入ってるんでしょ。だいたい家宝なんて、簡単によその人に見せられる物じゃないでしょ。普通、考えたら」
「お見せしよう!」
いきなり身を乗り出して、私の言葉に重ねるように声をはりあげた前公爵。
「ええ?」
「モチヂュキ殿、キャサリンたちを助けていただいた礼がちゃんとできてないと聞いている。もしよろしければ、我が家の家宝をご覧にいれよう」
「えぇぇぇぇ?」
「ただ、その、で、できればでいいのだが」
突然、前公爵は、モジモジしてきたかと思ったら、キラキラした目でエイデンを見つめた。
「エイデン殿の、ドラゴンの姿を……見せては貰えぬか?」
……男には、いくつになっても少年の心があるらしい。