作品タイトル不明
第661話 三歳児ノワール
日が暮れても少し熱気の残る山道を、スーパーカブで走っていく。風に吹かれているので、少し気持ちいい。
もう暗いからと、ハノエさんたちに村に泊っていくように言われたけれど、我が家のほうが気になるから、と断った。
エイデンは酔っぱらった村人たちと楽しそうに相撲をとりはじめていたので、帰ろうとしている私には気付いていなかった。
ちなみに、相撲は私ではなく大地くんが教えたもの。元々、孤児院の男の子たちの間でやってたのを、大人たちも見よう見まねで始めたのだ。それからは、宴会と言ったらコレ、という具合に、定番になっている。
山の中といっても、真っ暗闇ではない。
スーパーカブのライトもあるし、道にはソーラーパネルのついたガーデンライトが点いているし、その上、精霊たちが飛び交ってるおかげで、周囲はほの明るかったりする。
ログハウスの敷地にたどりついたところで、家の玄関が勢いよく開いた。
「さつき!」
裸足でトテトテと走り出てきたのは、三歳くらいの子供の姿のノワール。洋服はマルのお下がりのシャツと半ズボンだ。
ぽちゃっとした体型に肌は浅黒い。天然パーマっぽい短い黒い髪に、金色の目。美幼児ノワールである。
髪型と瞳の色は違うけれど、エイデンが小さい頃(?)は、きっとこんな感じだっただろう、と思うくらい、エイデンの面影が残っている。
元々、エイデンの卵から孵ったのだし、エイデンがパパみたいなものだといえば、似てくるのも当然だろう。
エンジンを停めている間に駆け寄ってきた小さな体のノワール。
スーパーカブから降りた私の脚にギュッと抱きついてきた。下から見上げてくる顔は、あざと可愛いってヤツだ。
「遅かったな」
少し拗ねたような甲高い声。
見かけは三歳児のノワールなのに、話し方はしっかりしているから変な感じだ。
「村のほうで、宴会になっちゃってね」
ポンポンと頭を軽くたたいてあげると、ニマーっという顔になる。
「んっ」
ムチムチした手を差し出してきたので、握ってあげると、ぶんぶん振りながら家のほうへと私を引っ張って歩いて行く。
『お帰り、五月』
「メェェェ」
玄関先には、黒猫姿のマリンと、元魔王のセバスが並んで座っている。
「ただいま。遅くなってごめんね。夕飯食べる?」
実は、ノワールを含む三匹は、食事をしなくても大丈夫な体をしている。彼らがお腹をすかせることはないんだけれど、食べるという行為は好きらしい。
「ううん、ウノハナたちと狩りに行って食べたからいらない」
ご機嫌に返事をしたノワールだったけれど。
『ノワール、それ、内緒って言ってなかった?』
「あっ!」
呆れた声でマリンに指摘されて、まずい! という顔になった。セバスは歯を剝きだして「シシシシシッ」と笑っている。
「……お留守番してくれるんじゃなかった?」
「あう、えと、ご、ごめんなさーい!」
私の手を離して家のほうに逃げようとしたノワールだったけれど、短い足のせいで逃げきれず。ガシッと私は襟首を掴んだ。
『しーらないっと』
「メェェェ」
我関せず、とマリンたちは家の中に入ろうとしたけれど。
「あんたたちも、なんでノワールを止めなかったの」
私の怒っている声に、ピューと家の奥へと逃げていく二匹なのであった。