作品タイトル不明
第658話 買い出しに行こう <ケイドン>(6)
ギャジー翁が魔法が使えるといっても、身体を癒す力はないそうだ。
癒しの力、といえば、ファンタジーの影響が強すぎなのかもしれないけど、私の頭に浮かんだのは教会。
実際、そういう力を持つ人もいるそうだけれど、あまり多くはないらしい。
ちなみに、ピエランジェロ司祭には魔力はあっても癒す力はないそうだ。
一般的には薬師のところで薬を買うものだそうで、次に医者にかかるのだとか。ただ、お金がそれなりにかかるので富裕層や貴族が多いらしい。
うちの村では、大病の話は聞かない。出産の時にオババが大活躍したのが大きな話題ではある。
ゾックじいさんの場合、薬師でどうこうできる段階ではないので、衛兵が街の医者を呼びに行ったらしい。
魔道具屋のゾックじいさんは、それなりに稼いでいたはずなのに、医者にかかっていた形跡がないらしい。
それなら甥っ子と言われる男性は何をしていたんだ、となるわけで、その甥っ子が怪しすぎる。
とりあえずゾックじいさんの状態をよくするのに、うちのブルーベリーなんてどうだろう、と考える。『収納』の中には、チャック付きのビニール袋(大)にパンパンに詰まったブルーベリーが入っているのだ。
「サツキ様は手を出されてはなりませんよ」
麦茶を飲んで一息ついたギャジー翁から言われてしまった。
「『ぶるーべりー』のことをお考えでしょう。しかし、あのような効果の凄いものは、ほとんどお目にかかることはありません」
「……はーい」
ギャジー翁には私の考えなどお見通しのようだ。
私だって、こちらでも相当ヤバそうな物であるというのは理解していたので、考えるだけに留めた。実際、寝たきり状態のゾックじいさんに、固形物を食べるだけの力があるか、わからない。
「そんなに心配なのか」
いつの間にか、ザックスたちと一緒にソーセージを買いに行っていたエイデンが、私の隣に座って聞いてきた。ピギーの肉でお腹いっぱいなのに、なぜか食欲をそそる匂いだ。
「まぁ、面識のある人だから、気にはなるというか」
1回しか会ったことはないし、私はただの客でしかない。
でも、助けられるのに、何もしないというのが、少しだけ気が引ける。
「……ブルーベリーじゃなくても、オババの薬でもいいんじゃないか」
「ああ、そうか!」
――ついつい自分ので、と考えがちなのはダメだな。
『サツキ様には不要でしょうが……』
そう言ってオババから渡された薬が何種類か『収納』に入っている。今まで使ったことはないので仕舞いっぱなしだ。
オババの薬には、ユグドラシルの葉が含まれていることもあって、万能薬と言ってもいいくらいに効き目が凄い。(本当の万能薬を作るには、色々と材料が足りないらしい)
私は『収納』の中から、オババの薬を探し出す。
「ん? これはどうかな」
栄養ドリンクくらいの大きさの、分厚いガラス瓶(ドワーフのヨハンさん製)に入っている薬には、自然治癒力を上げるのと、病の元となる物を排出させる力があるらしい。
「……それも十分に強力だと思うのですが」
ギャジー翁は呆れていたけれど、最終的にはオババの薬を渡すことを許してくれた。ただし、一気に飲むと逆に身体に悪いとのことで、一回に一匙がいいだろうとのこと。
路地のほうを見ると、ちょうど衛兵が医者を連れてきたところだったので、ギャジー翁も面倒そうな顔をしながらも、彼らのほうへと歩いていった。