作品タイトル不明
<ケセラノのギルド職員>
ビヨルンテ獣王国ケセラノの街の冒険者ギルドは、今日も賑やかだ。
特に暑い時期になると、虫系の魔物が多く発生するせいで、農家からの依頼が多くなるので稼ぎ時なのだ。
一組の冒険者パーティの処理が終わり、はぁ、と大きなため息をついた
「あーあ。ケニーさんとラルルさん、来ないかなー」
そう呟いているのは、冒険者ギルドの受付担当の犬族のターナ。外見が幼く見られがちだが、受付担当の中では中堅にあたる。
「そういえば、ケニーさんたち、最近見ませんね」
ターナの隣に座っている狸族のニコラが、伝票を捲りながら応えると、そのまた隣の虎族のオルガがうんうんと頷いている。
黒狼族のケニーとラルルは、美男美女という外見だけではなく、気さくで優しいということで受付担当に人気があるのだ。
「私の癒しなのに」
「確かに、確かに」
「……ムサイのは見飽きた」
受付担当たちの言葉に、ちょうどターナの窓口にやってきた猫族の女性冒険者たちが、三人の会話を聞いて笑っている。
「ここはムサイのが多いものね」
「あ、セナさん、失礼しました」
「フフフ、はい、護衛依頼の完了報告よ」
「はい」
セナと呼ばれたのはCランク冒険者。『雷の爪痕』という猫族の女性だけの冒険者パーティのリーダーだ。すらりとした長身は、女性冒険者の中でも背が高く、スレンダーなせいもあって、よく男性と間違われる。まるで宝塚の男役のような彼女も、受付担当たちからしたら、十分に癒しの存在だ。
「そういえばケニーとラルルだったら、前に北の街のほうで見かけたって聞いたわよ」
処理を待っているセナの背後から、パーティメンバーの一人が声をあげた。
「そうだっけ?」
「ほら、今回の依頼の途中で寄った街でさ」
「ああ、そういえば」
「北の街って、ノーザンですか?」
ノーザンは獣王国の王都寄りの街のことだ。ケセラノよりも大きくて、ダンジョンが近くにあるというので、冒険者に人気の街ではある。
「違う、違う。なんだっけ……カオス? カース?」
「カノースでしょ」
「そう、そう、それ」
――カノースって、荒地しかない田舎のほうじゃない。
その時に聞いた話で盛り上がっている『雷の爪痕』の面々をよそに、ターナは首をかしげる。
「なんでも、最近、黒狼族の冒険者たちが、大量に魔物を卸しにきてウハウハらしいって」
「確か、そこにケニーとラルルも顔を出してて」
「彼らだけじゃないわ。『疾風迅雷』の兄弟も顔を出してるって」
「ええっ!」
そう言われて、ターナの背後にいた男性スタッフが声をあげた。
彼の手には小さな紙があり、それを握りしめて慌てたように奥の事務室に駆けこんでいく。
「……大丈夫?」
「たぶん? えーと、お疲れ様でした。報酬を用意しますので、少しお待ちください」
心配そうに声をかけてきたセナに、ターナは返事のしようもなく、苦笑いを浮かべるのであった。
* * * * *
「なんだこれは」
「はい、俺も『雷の爪痕』の話を聞くまで、気にしてませんでした」
男性スタッフが手にしていた紙には、カノースにある冒険者ギルドの出張所の実績がメモされていた。
カノースは小さい町のため、出張所しか置かれていないのだ。
そこの実績が、ここ1か月でとんでもなく伸びていて、出張所で扱うような金額ではなくなってきている。
「カノースからの手助けが欲しいなんていう依頼はうちには来てないが」
「ちょっと遠いですからね」
「それにしたって、この金額は」
「……うちの一月分の取り扱い金額に迫ってますね」
細かい内訳まではわからないが、相当高額な物が取引されていることくらいわかる。
実際、ケセラノの街のギルドのほうは、前月に比べるとだいぶ落ち込んでいた。
「最近、黒狼族の連中を見かけなかったのは、こういうことか」
「あんな何もないところで、あいつら何やってるんですかね」
「知らん!」
ギルドマスターは自分の髪をぐしゃぐしゃとかきながら、大きくため息をつくのであった。