作品タイトル不明
第649話 王都からの使者(1)
村の外に建てられている教会の前に、黒一色の立派な馬車が停まっている。馬車の汚れ具合からも、かなりの距離を走ってきたように見える。
前に王太子一行が来た時にも見たけれど、それよりもだいぶ小さいサイズだ。御者らしき老人が一人だけ馬車で待っているようだ。
周辺には護衛らしき人の姿もない。
――王都からと言っていたけれど、こんな無防備な状態でやってきたの?
王都からケイドンの街まで馬車で1か月くらいと言っていなかっただろうか。よく、ここまで無事に着いたものだ、と感心しながら、私は御者の老人にぺこりと頭を下げてから、教会のドアを開けた。
すでに日が傾いているので、ホールはすでに薄暗い。あまり大きくはない建物ではあるけれど、その中に長椅子がいくつも並んでいる。
「こんにちは~」
無人のホールに私の声が響く。
しばらくすると、ホールの右前方のドアが開いた。確か、あそこは応接室のような場所だったはずだ。
「おお、サツキ様!」
ピエランジェロ司祭が現われた。
「もしや、ベシーと会いましたか」
「はい。何やら、私宛の手紙がきていると聞いたので」
「ええ。そうなんです。それと、王都からいらしている方がおりまして」
ニコニコと機嫌のいいピエランジェロ司祭。周囲にいる精霊たちの様子も、落ち着いている感じなので、王都から来たという人は悪い人ではないのだと思う。
「失礼します」
ピエランジェロ司祭に促されて部屋に入ってみると、中には一人の老人が椅子に座り、その背後に二十代くらいの男性が立っていた。
老人は白髪で温厚そうな顔立ちで、ほっそりとした体型。背筋をピンと伸ばして椅子に座っている。若い男性のほうは焦げ茶色の髪に、少しばかり目つきが鋭い感じがする。けれど、二人とも似たような顔立ちをしている。二人は家族か何かだろうか。
それにしても。
――なんか、どこかで会ったような?
そう思った瞬間、老人が立ち上がり、深々と頭を下げてきた。それに倣うように背後の男性も頭を下げる。
「えっ?」
いきなり頭を下げられるとは思ってもいなかったので固まる私。
そんな私の背中を、ピエランジェロ司祭が優しく押して、椅子のほうへと促される。
「ヴィクトル、まずは挨拶が先であろう」
「はっ」
どこか楽しそうな司祭の声に、私のほうは困惑する。話の感じから、この二人は知り合いなのだろう。
「サツキ様、この者はヴィクトル・メーデンと申します」
「初めてお目にかかります。ヴィクトル・メーデンと申します」
「あ、望月五月と申します」
「お礼を申し上げに伺うのが遅くなりましたが、モチヂュキ様にお救い頂いたサリー・メーデンの祖父でございます」
――サリーって、もしかして、サリーちゃんのお祖父さん!?
いきなりのサリーちゃんの親族登場に、慌てて私のほうも深々と頭を下げる。
「いえいえ、わざわざ、こんな遠い所まで! どうか、頭をあげてください!」
さすがに、もう2年前の話なので、ここまで頭を下げられると、あわあわしてしまう。
「ヴィクトル、さぁ、頭を上げて、早く君の仕事をするべきじゃないかね」
「ああ、そうでした。モチヂュキ様、こちら、キャサリンお嬢様からのお手紙でございます」
サリーちゃんのお祖父さんであるヴィクトルさんから差し出されたのは、随分と分厚い封筒で、封には真っ赤な封蝋とともに、綺麗なサインが書かれていた。