作品タイトル不明
第631話 大人びたガズゥ
ネドリの従弟、ダートたちの行動が怪しかったので、村の中に入れるのは憚られた。なので村の入り口そばにある教会で待たせることにした。
さすがにホワイトウルフを引き連れた私の言葉に文句はないようで、大人しく私たちの後をついてくる。
「サツキ様、ご迷惑をおかけしてすみません」
「ん~、大丈夫よ」
チラリと後ろに目を向けると、キョロキョロと周囲を見ながら、大人しくついて来ている。たぶん、ホワイトウルフたちが彼らを囲うように歩いているせいかもしれない。
従弟たちを教会へ案内した後、私だけ村の中へと戻り、寺子屋に向かう。
中ではピエランジェロ司祭とレキシーさんが、それぞれに子供たちに勉強を教えていた。
「ガズゥ!」
前のほうの席で、一人黙々と勉強をしていたガズゥ。
元々、文字も簡単な計算も出来ていたそうで、ピエランジェロ司祭ももっと学ぶ気があるなら学園に通うのもアリだと言っていた。
しかし、獣人の彼がコントリア王国の学園に行くのは無理なので、獣王国のほうの学校について調べたほうがいいとも言われていた。
ただ、本人に獣王国の学校に行ってまで学ぶ意思がなければ、無理に行かせるのも、というので、今はピエランジェロ司祭が教えられる範囲で、学んでいるらしい。
私の声で振り返ると、顔を引き締めて頷く。机の上をサッサと片づけると、私のほうにやってきた。
目の前に立っているガズゥとの視線の高さは、私と変わらない。すっかり成長して、私と身長は変わらない……というか、すでに超えていて、少年から青年に変わってきている気がする。
「来たの?」
「うん。今、ネドリと話してる」
「わかった」
そのまま、自分の家に向かっていくガズゥの背を見送った私。
「風の精霊さんたち、ビャクヤたちに村に来るように声をかけてきてくれる?」
『まっかせてー!』
『よーし、だれがいちばんか、きょうそうだー』
『おっさきー!』
ピューンっと勢いよく散っていく精霊たち。
――この様子だと、すぐに来そうかな。
ネドリの家に行くと、赤ん坊の激しい泣き声がドアの前に立っていても聞こえてきた。
ドアのノックの音がちゃんと聞き取れるかな、と心配になったけれど、すぐにガズゥがドアを開けてくれた。
「サツキ様」
現れたガズゥの格好は、村で普段来ているTシャツにハーフパンツではなく、最近大人たちと一緒に狩りに行く時に着るようになった革製の軽鎧姿。腰には剣をぶら下げている。ドワーフのヘンリックさんからいただいた物だそうで、お手製の一品なのだとか。
「荷物は?」
「父さんのマジックバッグにほとんど詰めてあるんで、それを持っていけばいいって」
「万が一、離れ離れになった時用に、自分の分もちゃんと持ってなよ」
「大丈夫。サツキ様から貰った水筒とかは、ちゃんと自分のリュックに入れて持ってくよ」
背後に大きな革製のリュックが置かれている。あちらで私が買ってきたリュックを参考に、村の女性陣が作った物だ。それに軽量化の魔法陣をギャジー翁が付けてくれたらしく、かなりの量を入れても重くはないらしい。
どうせだったら、これもマジックバッグにしたら、とも思ったのだが、リュック自体の素材のほうの耐久性が足りないのだそうだ。
「もう行くの?」
ハノエさんが泣き止んだゲッシュを抱えて現われた。泣き止んだゲッシュは、今は少し眠そうだ。
「迎えが来たらしいんだ。父さんが相手をしているらしいから、俺も会ってくる」
「そう……」
「俺のも父さんの荷物も置いていく。また戻ってくるから」
「わかったわ」
ガズゥに教会に向かうように伝えると、わかった、と笑みを浮かべて出て行った。
振り向くとハノエさんの顔色が酷く悪い。
「大丈夫?」
「……大丈夫、と言いたいところだけど、心配で心配で……」
「ネドリもガズゥもきっと大丈夫よ。それにビャクヤたちも呼んでいるの。彼らに同行してもらいましょう?」
「ああ、ビャクヤ様たちが……だったら、大丈夫かしら」
「そうよ。それに、何かあったら、きっとエイデンが飛んでいくに違いないわ」
「プッ、エイデン様が出てきたら、里が壊滅しちゃうんじゃ」
「可能性はないとは言えないわ」
ようやく笑みを浮かべたハノエさんに、私もホッとした。