作品タイトル不明
第590話 奥さんと子供たちの繋がりについて
稲荷さんたちは軽トラで村へ向かったので、その間に土鍋でご飯を炊く。
お米はどうせなら、去年うちの敷地で作ったお米を、と言いたいところだけど、量がないので断念。普通に買ってきたコシヒカリだ。
カレーだけでは物足りないだろうと、トッピング用に目玉焼きとソーセージを焼く。
卵はうちの鶏の卵なので、下手をすると皿に盛ったカレーの半分以上隠れる大きさになる。私は半熟が好きなので半熟の目玉焼きを3つ大皿に載せておく。
ソーセージは二袋をテープで巻いて売っている市販のもの。できれば、魔物のお 肉(ワイルドボアとか) のソーセージなんてものを食べてみたいんだけど。やっぱり、こういうのは街のお肉屋さんに頼まないと難しいのだろうか。
お米が炊きあがって、サラダ(レタスとトマトとキュウリと、いたってシンプル)も出来た。
東屋にLEDのランタンを下げていると、車のエンジンの音が聞こえてきた。
「お待たせしてすみません」
軽トラから降りてきたのは稲荷さんのみ。
「あれ、大地くんは?」
「いやぁ、実はうちの奥さんがなかなか放してくれなくて……置いてきちゃいましたよ」
稲荷さんが苦笑いしながら言うことには。
大地くん、高校の寮に入ってから一度も実家には戻っていないらしい。とは言っても、せいぜい1か月も経っていないよね? と私なんかは思うのだが。
「実は、うちの奥さん、私と結婚したせいか、家族との繋がりのようなモノを感知するようになってしまいまして」
なんとなくではあるものの、双子の二人に関しては存在を感じることができるらしい。これを実感したのが、大地くんがあちらの中学校に通うようになってから。
大地くんがあちらに行くと、プツリと細い糸が切れたような感覚になって、不安感が増したのだそうだ。
それを聞いて思い浮かんだのは、エイデンのこと。
最初、私が買い出しに行ったりした時に、よく不安がってドカ雪を降らせていたっけ。
「残念ながら奥さんと娘は、あちら側には行けないんで」
奥さんと稲荷さんとの出会いは偶然であって、二度とあちらには行けないのだそうだ。
であれば大地くんは? となるのだけれど、大地くんは稲荷さんの血が色濃く出ているので、両方行き来できるらしい。
スマホみたいな連絡の手段があればいいのだろうけれど、界を渡ることができるようなモノはないのだそうだ。
稲荷さん経由で手紙のやりとりも出来そうなものだけれど、大地くんのほうが筆不精らしい。
「だからと言って、大地に毎週戻るようにとは言えないんでねぇ」
地元の中学校に通ってた時は稲荷さんの力もあって毎日戻れたけれど、今の高校の寮では稲荷さんの力が及ばないんだとか。
「こちらでも学校の寮に入ることは普通にあることだし、2、3か月や半年戻らないというのは普通にあることらしいんですがね……厄介なもんです」
ちなみに、娘のディアナさんはすでに学校を卒業しているらしい。大地くんも同じ学校を卒業をしているそうだ。まだ勉強したいのか、と思うと、凄いなぁ、と感心する。
そんな話をしていると、大地くんがマウンテンバイクに乗って戻ってきた。あの坂道を上って来るなんて、若いわ(60代だけど)。
「カ、カレー、残ってますかっ!」
大地くんのあまりにも必死そうな顔に、思わず大笑いした私と稲荷さんであった。