軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第585話 稲荷さんも色々と大変(2)

本当なら奥さんの件を稲荷さんに確認だけしてすぐにも戻るつもりだった。

「どうしたんですか」

自分でも不用意に言ってしまったと思う。しかし、目の前の稲荷さんの様子を見たら、ちょっとだけ放っておけないという気になってしまったのだ。

「もう、聞いてくれます?」

眉を八の字にした稲荷さんに勧められて、事務所の中の小さなテーブルのところに移動する。それと同時に、いつの間にか事務所のスタッフらしきおばあさんが、お茶とお煎餅を持ってきてくれた。

「あ、ありがとうございます」

おばあさんはニコッと笑って、すぐに離れていく。見覚えのないおばあさんだったけれど、顔立ちがなんとなく稲荷さんに似ている気がした。

「はぁ、参りましたよ」

大きな湯飲みを手にした稲荷さんの話を聞いてみると、ことの始まりは大地くんが高校の寮に入った頃に遡るらしい。

高校までは車で3時間ほど。電車でも在来線に乗ったり、バスに乗り換えたりで4時間かかるということで、稲荷さんが車で送って、なんとか無事に入寮したはずだった。

しかし、問題はその日のうちに起こった。

「いやはや、あんなところに『異世界の穴』が空いてるとは思いもしませんでしたよ」

高校の寮の裏手の山に、その『異世界の穴』が空いていたらしいのだ。

実はどこにでも小さな綻びっていうのがあるらしい。しかし、大概は自然に収まるそうなのだが、その『異世界の穴』は自然に収まる大きさではなくなっていたらしい。

稲荷さんが奥さんと出会ったキッカケも、稲荷さんの山の『異世界の穴』に迷い込んできた奥さんを助けたことと聞いていたので、もしかしたら大地くんも、そんな出会いが! なんてワクワクしたけど、そんな出来事は早々起きないらしい。

普通の人には何も感じ取れなくても、すぐさま感知した稲荷さん。

「厄介なのが出てくる前に、穴を塞ぎたいところだったんですがねぇ」

どうもその土地は稲荷さんの管轄ではなくて、別の神様のモノだったらしい。

それなら、その神様は何してんだって話なんだけど、たまたま他所の神様のところに行っていて留守だったそうで勝手をするわけにもいかず、応急処置の結界だけして連絡して帰ることにしたそうだ。

しかし、他所の神様が戻ってくる前に、結界が破られてしまった。それも稲荷さんが地元に戻ろうと、高速にのったところで。なんというタイミング。

応急処置とはいえ、稲荷さんの結界を破るなんて、そうとうヤバいヤツだったに違いない。

「ええ。大地が取り込まれそうになってましたからね」

稲荷さんも渋い顔になってそう答えた。

「え、無事なんですよね」

「まぁ、なんとか」

稲荷さんの『なんとか』というのも、微妙な響き。

本当に大丈夫なのか、と心配になるも、大地くん本人はゴールデンウィークには村に行く気満々になっているという話を聞いてホッとする。

「その後始末でなかなか家に帰れなくて……ようやく落ち着いたと思ったら、キャンプ場はこんなだし。人が増えただけならいいんですけど、迷惑行為をやらかす人間も増えてましてねぇ……ようやくあちらの家に戻れたと思ったら、うちの奥さん、娘ともども旅立っていたわけです」

ちょっと怖い顔になっている稲荷さん。その迷惑行為をやらかした人たちは……まぁ、私が心配することではないだろう。

一応、奥さんには稲荷さんの加護があるので、だいたいの場所は把握してたし、レディウムスさんもいるし、奥さん自身もかなり強いので大丈夫だとは思っていたそうだ。

私にも近々、知らせに行こうかと思っていたところで、どうも稲荷さんの予想よりも早く村に到着してしまって、私の方が先に来てしまったというわけだ。

「とにかく、無事にそちらに到着したのでしたら安心しました」

ほっと溜息をついている稲荷さん。

普通に家族を心配している稲荷さんの姿に、神様っぽくないなぁ、と思ってしまったのは内緒だ。