作品タイトル不明
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人族の少年は魔の森の縁で薬草採取に精を出していた。
まだ冒険者になりたてで、受けられる依頼はそれしかないからだ。
「終わった?」
少年より少し年上くらいの兎獣人の少女が、森の奥のほうから出てきた。
「姉ちゃん」
薬草から滲んだ緑色の汁で汚れた手で、額の汗を拭う。そのせいで汗までも緑色になってしまう。
「やだ、ちゃんと布で拭きなさいよ」
カラカラと笑いながら少女は、自分の腰に下げていた布で、少年の汗を拭ってやる。
「えへ。ありがとう」
この二人はケセラノの街にある同じ孤児院出身の冒険者だ。『姉ちゃん』と呼ばれた少女は、少年よりも冒険者ランクが2つほど上だ。
「それで、まだ終わらないの?」
「うん、ごめん。ハプン草は10束出来たんだけど、モギナはこの辺にないみたいなんだ」
「ああ、そうね。モギナはもう少し奥に行かないとダメだわね」
少女は「うーん」と唸りながら考え込む。
「……あたしが知っている群生地があるにはあるんだけど、ちょっと奥のほうなんだよね」
「え、そんなところがあるの?」
「うん……最近は薬草採取の依頼を受けることも多くないし、教えてもいいか」
「やった! って、姉ちゃんのほうは?」
「あたし? あたしはほら」
そう言って少女は腰の袋の中から、20cmほどの長さの細長いツチネズミの尻尾を数本、自慢気に取り出してみせた。
魔の森の際から、少し奥まったところまでやってきた二人。奥といっても、木々の隙間からは青空がのぞけるくらいで、そこまで深い場所ではない。本当に奥まで行ってしまうと、日の光など入ってこれないほど厚く木々に覆われているのだ。
兎獣人の少女は長い耳をピンとたてながら、周囲を窺っている。
「あ、あった!」
「シッ!」
「ごめんっ」
少年は慌てて抑えた声で謝った。
「なんか、いつもと空気が違うの。さっさと採って、早く帰ろう」
「わかった」
真剣な少女の声に、少年も真剣な顔になる。
――本当に今日はどうしたんだろう。
少女はいつも以上に聞き耳をたてる。前に来た時は、ここまでピリピリした空気ではなかったし、小さな動物や鳥の気配もあちこちにあった。
「!?」
兎獣人の少女の耳に、微かな人の叫び声が聞こえ、バッと音のした方へ目を向ける。
「姉ちゃん、どうしたの?」
不安そうな少年の声が聞こえたけれど、少女は音のする方向に目と耳を向ける。
「……逃げるわよっ」
「えっ?」
少年の返事を待たずに少女は彼の腕を掴むと、彼女の持てる力の全力でケセラノの街の方へと駆け出した。
「ね、姉ちゃん」
「黙ってっ」
引きずられている少年の足は傷だらけだが、彼女の顔色は真っ白だ。
――まずい、まずい、まずい!
彼女の頭の中は、そんな言葉を連呼している。
「痛っ!」
「うわっ」
焦りすぎた少女は木の根に躓き、少年とともに勢いよく倒れこんだ。
――街まで、まだあるのにっ!
泥だらけになりながら立ち上がろうとした時。
グガァァァァァァ!
ウオォォォォ!
「……くそっ、ファーロン…ろう、へた……がっ!」
「ボ……、いそ……ぐわっ!」
「ロディ!」
野太い魔物のいくつもの雄叫びと、男たちの怒鳴り声が徐々に近づいてくる。
――ああ、神様!
腰を抜かして動けなくなっている二人は、互いに抱きしめ合いながら、目を閉じた。
ガサガサッ
『……魔の森の様子が気になって来てみれば』
彼らのそばの草むらをかき分ける音とともに現れたのは、大柄なホワイトウルフたち。
その中で一際大きな身体なのは、ビャクヤ。そして、三つ子がのそりと現れた。
不機嫌そうな声のビャクヤは、チラリとカタカタと震えている少女たちに目を向ける。
『この子らを放っておいたら、五月様に叱られるな』
『でも、ちょっと、アレ、多くない?』
『このままじゃ、街にいっちゃうよ?』
『ふんっ、それは自業自得だ……とりあえず、その子らを五月様のところに』
『わかった!』
元気に返事をしたのはウノハナ。兎獣人の少女の服の襟をはむっとくわえる。
「ひえっ!?」
兎獣人の少女が声をあげたが、ウノハナは気にせずにひょいっとシンジュの背中に放り上げる。
「うわっ!」
慌てて少女と少年はシンジュの背にしがみつく。
『さぁ、行くわよっ!』
『蹴散らせ~』
『わーいっ!』
「ひーっ!」
……三つ子は楽しそうに声をあげながら、荒れ狂う魔物たちの脇を走り抜けて行く。