作品タイトル不明
第566話 赤ちゃんと、車と、買い出しと
桜の花は完全に散ってしまい、今は葉が出てきて緑一色になっている。一方で、他の果樹の花があちこちで咲き始めていて、段々と暖かくなってきている。
おかげでハチたちがかなり活発に飛び回っているので、一度、養蜂箱を確認したほうがいいかもしれない。
村の中は、赤ん坊の泣き声が響いて、なかなかに賑やかだ。
あちらにいた頃は、泣き声にイラっとしたことが多かった私なのに、自分でも驚くくらいの変わりようだ。
中でも孤児院の女の子たちは、何かと手伝いたがっているようで、新しくママになったリリスやケイトも助かっているらしい。
一方で、先輩ママ軍団のほうも、もう少ししたら生まれる感じのようで、いつもならさっさとダンジョンなり狩りに出かけるネドリたちパパ軍団が、ソワソワしながら村の仕事をしているらしい。
――ママ軍団の赤ん坊も生まれたら、賑やかどころではなくなるだろうなぁ。
今から何枚もの布おむつがはためく光景が目に浮かぶ。
そして、もう一つの新しい命でもある魔王の卵はいまだに生まれてこない。相変わらず聖獣のマリンに抱えられている。
最近マリンは何やらご機嫌で、卵を抱えてゴロゴロ言っているのだ。よっぽど、卵を気に入ってるみたいだ。
――とりあえず、紙おむつ買い足しておこうかな。
稲荷さん親子からも指摘を受けていた通り、人型の何かが生まれてくるというなら、用意しておくにこしたことはない。
さすがに布おむつで世話をするのは私には無理そうなので、そこは便利なものは素直に使うに限る。
今日は久しぶりに軽自動車で買い出しに向かう。軽トラに乗ることの方が多いので、たまには乗ってあげないと、と思うのだ。
ちらりとフロントガラスの中央上部分に貼られている車検証シールが目にはいった。そういえば、そろそろ車検を受けないとまずかったはずだ。軽トラのほうもまずい。
特に軽トラは、かなりガタガタの道を強引に走ったり、古龍の姿のエイデンに抱えられたりして、傷があちこちにできている。あんまりボロボロな状態で公道を走るのも、恥ずかしい。
――あ、そういえば免許の更新、いつだっけ。
後で稲荷さんの事務所に寄って相談しなくては、と思いながらハンドルを握りしめる。
いつものようにトンネルを抜けると、緑で溢れている木々の様子や、窓の外から漂ってくる草の匂いに春の気配を強く感じる。
――まずは、ホームセンターだわ。
紙おむつも買うけれど、今日のメインの目的は、稲の苗用のトレーを買う予定。
ログハウスの敷地では『ヒロゲルクン』で田んぼをやるつもりで、苗もそのまま植えられるけど、村用の田んぼは、ちゃんと苗からやろうと思っているのだ。
育て方から村人たちに教えておかないと、彼ら自身で育てられないし、続けていけないからだ(実際には、精霊頼みの私が教えられるというほどでもないんだけれど)。
「他には、何がいるかなぁ」
ホームセンターに向かう間、頭の中で買い物リストを考え続ける私なのであった。