作品タイトル不明
第554話『魔王の卵』の中身は
顔を真っ赤にしながら見事に不貞腐れている大地くんと、私に怒られて、少ししょんぼりしているエイデン。
「いやぁ、私も珍しいものを見ましたよ」
そう言いながら、クククッと笑う稲荷さん。性格悪いぞ。
「い、いつも冷静で滅多なことで驚かない大地が、まさかエイデン様の威圧で神獣化してしまうとはねぇ」
稲荷さんの『神獣化』という言葉にピクリとなる大地くん。今は、人の姿に戻っている。ちなみに洋服はちゃんと着ている。エイデンも人の姿になるときには服を着ているので、同じような仕組みなのかもしれない。さすが異世界。
「エイデン、威圧なんてしたの?」
「仕方ないではないか。五月のそばに俺の知らない力ある者がいたのだぞ」
「稲荷さんがいたじゃない」
「うっ」
「それに、言ったよね? 近々、稲荷さんの息子さんが遊びにくるって」
「う、うむ」
――まったく、視野が狭いんだから。
たぶん、私のことしか見えてなかったってことなのだろう。エイデンの悪いところだ。
それにしても、エイデンが脅威に感じるくらいなのは、さすが稲荷さんの息子ということなんだろう。
「ほら、大地くんに謝って」
「む……す、すまん」
「い、いえ」
お互いぺこりと頭を下げ合った。
その様子に、稲荷さんは、いつも以上にニヤニヤしている。
「あ、そうだ、忘れるところだった。『魔王の卵』」
「ああ、そうでしたね」
「ちょっと待っててください」
私は急いでログハウスの中へ『魔王の卵』を取りに戻る。
今日も暖炉の前で『魔王の卵』を抱えているマリンだったけれど、稲荷さんに見せるからと言えば素直に渡してくれた。
「え、重っ」
久々に抱えたせいなのか、前よりも重く感じる。ノワールの時も、こんなに重く感じたっけ? と不思議に思う。
そのまま『魔王の卵』を抱えてログハウスから出ていくと、稲荷さんが細い目を大きく見開いて(それなりにだけど)、私の手元を見つめている。
「これ、ですけど」
「なるほどー」
一瞬、渋い顔をしたかと思ったら、『魔王の卵』のてっぺんに手を触れた。
「……これはもう、『魔王の卵』じゃありませんねぇ」
「へ?」
「大地、お前も触れてみなさい」
「……はい」
神様としてのお勉強なのだろうか? なんだろう。ちょっと稲荷さんが親の顔をしている。
大地くんも稲荷さんの真似をして、てっぺんに手を触れた途端、細い目を見開いた。
「なんだ、これ」
「お前には何が見えた」
「……人の赤ん坊に見える」
「へ?」
――元『魔王の卵』の中に、赤ん坊!?
「ただ……角生えてるよね」
――それ、人じゃないよね!? やっぱり魔王なんじゃないの!?
そう思っても声にはならず、口をパクパクしてしまう。
「うむぅ……五月様、この子はたぶん、『魔族』といわれる種族ですね」
「ま、魔族?」
「ええ。この世界には『魔族』は存在しません。魔獣や魔物ならいますけどね。これは確かに別の世界から召喚されたものです。しかし、すっかり瘴気も抜けてますから魔王になることはないでしょう」
「はぁ……」
てっきり動物系かと思っていたけれど、人型の赤ん坊とかって……私に世話ができるのだろうか。
今から、ちょっと不安になってきた私なのであった。