作品タイトル不明
第553話 大地くんは、やっぱりチビ狐だった
ここ数日暖かい日が続いたおかげで、ログハウスの桜の花がちらほら咲き始めた。
「もうこっちは咲いてるんですね」
へー、と感心した声をあげているのは大地くんだ。以前に見た制服姿ではなく、しっかりキャンプに来ました、って感じのカジュアルな格好だ。
中学校の卒業式も終わり、春休みに入ってすぐ、稲荷さんの軽トラに同乗してやってきた。
二人が似たような格好で並ぶと……本当に親子だわ、と実感する。
「望月様にはご迷惑をおかけして、すみません。ほら、大地」
「あ、よよろしくお願いします」
稲荷さんがペコペコと頭を下げまくり、大地くんも稲荷さん同様に頭を下げる。
「まぁ、まぁ、頭をあげてください」
実は、今回の大地くんの訪問では、私はあんまり世話をしないでいいらしい。
最初はうちの離れに泊まらせるつもりだったけれど、ギャジー翁に話をしたら、エルフ組のほうで面倒をみてくれるという話になったのだ。
実際、今モリーナの家の隣にはギャジー翁専用のログハウスが建っていて、そこにギャジー翁とお付きの人(ヴィッツさんというお弟子さんの一人らしい)が暮らしている。
次にグルターレ商会が村に立ち寄るまでの間、村に滞在することにしたらしい。
「荷物はそれですか」
たぶん、滞在中の食料なのか、スーパーのビニール袋に色んなものが詰め込まれている。ポテトチップの袋も見えるから、もしかしたら半分はスナック類かもしれない。
その他にもいくつかの段ボールが積み重なっているのは……。
「あれって、お酒?」
おいおい、未成年に何を持たせているんだ、と思ったら、ドワーフたち用の差し入れらしい。どうせ稲荷さんだろう。
「あと、これは頼まれてたヤツです」
稲荷さんが荷台から下ろしたのは、柚子の苗木。梅干しをもらったりして、お世話になっている農家さんの敷地の柚子を、挿し木で苗にしたものを譲ってもらったのだとか。
直接お会いしたことがないので、いつか手土産持って挨拶に行かないとダメだろう。
「よいしょっと」
最後に荷台から下ろしたのは、ちょっとお高そうなマウンテンバイクだ。
高校の合格祝いで買ってもらったらしい。しかし高校の寮に入ったら、しばらく乗ることもできないので、せっかくなので、うちの山の中を走り回りたいらしい。
――魔物とかいると思うんだけど、大丈夫なんだろうか。
そんなことが頭をよぎったんだけれど、一応、神様の血をひいてる子だし、大丈夫なんだろうと勝手に思うことにした。
「そうだ、『魔王の卵』、見ていきます?」
いまだに変化のない『魔王の卵』。マリンが抱え込んでいるのも変わらずだ。
「あ、そうですね……って、その前にっ」
『五月ッ!』
「え、エイデン!?」
いきなり空が真っ暗になったかと思ったら、巨大な古龍が上空に現れた。
『五月ッ、そいつから離れろっ」
「は?」
『何者だっ、お前はっ!』
エイデンが言っているのは、おそらく大地くんのことだろう。稲荷さんには見向きもせず、怒鳴るエイデンに、大地くんはびっくりして……。
『ひっ!? な、なんだアイツッ!』
ぼふんっという音とともに、白い狐の姿に変わってしまった。
大きさはウノハナたちとそう変わらない。しかし、稲荷さんのお狐様バージョンと比べると……やっぱり、チビ狐だ。
『ふんっ、狐の魔物かっ!』
「エイデン、落ち着いて! 魔物じゃないからっ!」
『五月! まさか!』
大地くんを庇うように立つと、エイデンはショックのような表情を浮かべる。
「いいから、人の姿でここに来なさいっ!」
何がまさか、なのか知らないけれど、ちゃんと話すためにもそばに来るように言うと、すんなり私のそばへとイケメンエイデンの格好でかけよってくる。
その間、稲荷さんはどうしてたかというと。
「あーっはっはっは」
……なぜか、バカ笑いしていた。