作品タイトル不明
第552話 大地くんの来訪理由
ずずずーっ
お茶をすする音が事務所に響く。
「ふぅ~、大地、お茶をいれるの、上手くなったな」
「……それ、粉末茶」
稲荷さん、お客さん相手から戻って渡されたお茶で、やらかした。
私としては、普通に美味しくいただいてたからいいんだけど。
さて、ロケに来ていたというテレビ関係者のほうは、バイトくんたちに任せて戻ってきた稲荷さん。それでいいのか、と思いつつも、稲荷さんが『大丈夫、大丈夫』と言うので、私の方では何もできないので放置。
「そ、そうか~。……ところで、望月様、なんか物騒なモノが現れたそうで」
いきなり、話を切り替えていいのか、と思いつつも、色々とあったことは確かなので、とりあえず、近況報告をする。一番の物騒な話と言えば帝国の森での出来事だろう。
「しかし、『魔王の卵』とはねぇ」
うーん、と顎に手をあて考え込む稲荷さん。
「大きさからいうと、ノワールの卵とあまり変わらないんで、またドラゴンでも生まれてくるのかなぁ、なんて思うんですけど」
「どうでしょうねぇ。一概に、卵からドラゴンが生まれるとは限りませんよ?」
卵生の生き物だったら、鳥の可能性もあるし、蛇や亀だってある。
「そういった生き物でしたらいいですけど、異世界の卵ですからねぇ。スライムみたいなのとか、虫系もありえるし」
――げ。虫という可能性もあるのか。
あの大きさの卵から虫が生まれるとかは、ちょっとキツイ。まさか蜘蛛とかが生まれたりしないよね、と思ったら、背筋がゾッとする。
普通の虫サイズだったら、キャーキャー騒ぐほどではないものの、得意ではない。
「……でも『魔王』っていうくらいだから人型の可能性もあるよね」
冷静なコメントは大地くんだ。
「卵だよ?」
「卵でも、さ」
……そうか。
なんだかんだいって異世界だ。何があってもおかしくはないのか。
「……生まれてみないとわかんないけどね」
はぁ、とため息をつきつつ、煎餅をぼりりっと噛む。
相変わらず、美味しい。
「ああ、そうだ」
肝心なことを確認しなくては。
「ギャジー翁から、この春休みに大地くんが村にくるって聞いたんですけど」
「あっ!」
稲荷さんが、思い出した! みたいな感じで驚いている。
「そうだった! いやぁ、休業前に話をしたかったんですが、タイミングが合わなくて……ほら、大地、ちゃんと望月様にお願いしろっ」
「お、お願いします」
「い、いやぁ、いきなりお願いって言っても、うちの山、何もないよ?」
中高生が楽しむような遊ぶところもないし、そもそも、住んでいる場所は違えど、彼も同じ異世界にいるはず。
ちらりと父親に目を向けたけれど、助け舟はないと諦めたのか、しぶしぶ話し出した大地くん。
「……俺、エルフの里ではずっと引きこもっていて」
そういえば、前に会った時に稲荷さんが、居心地が悪そうと言っていたのを思い出した。
明確にいじめられたわけではないけれど、いまだに遠巻きにして腫れ物状態の扱いをされ続けているらしい。
それに比べると、こっちは外見はほぼ変わらない同世代(本当は全然同世代ではないらしい)の子たちと一緒に過ごせるので、だいぶ気が楽なのだそうだ。
それがなんでうちの村? となるんだけれど、種族関係なく、色んな人が住んでいるというのが興味深いのだとか。
「あっちではエルフの里からは出たことがなくて……」
「あー、大地に限らず、多くのエルフは里から出る者は多くありません。商会や冒険者になるような連中くらいでしょうかねぇ」
「へ、へぇ」
となると、大地くんにとって異世界の中学校の生活は、さぞかし刺激的だったろう。その上、高校の寮生活を経験したら、今以上にエルフの里の生活は窮屈に感じるんじゃなかろうか。
「それに、ギャジー翁が、望月様の村に行くっていうから、俺も行ってみたくて」
「ギャジーさんは、大地の魔道具の師匠なんですよ」
「へ?」
大地くんが、まさかのモリーナの 弟弟子(おとうとでし) だった!