作品タイトル不明
<魔塔の主と皇帝>
魔塔の主は青白い顔で、ドグマニス帝国の宮殿の謁見の間で跪いている。
その場には皇帝以外にも、宰相や高位貴族たちも立ち会っている。
あれから研究施設からの連絡も調査隊からの連絡もとれないまま、皇帝から呼び出され、皇都の端にある魔塔からやってきていた。
「……で、『召喚』の実験はどうなっている」
「現段階では、まだ角ウサギの亜種と思われるモノが『召喚』出来ております」
「亜種?」
「はい、ただ、こちらと環境が違ったのか、すぐに死んでしまいました」
「嘘を言うでない。お前の部下が殺したんだろう」
「っ!」
ジロリと見下ろす皇帝。年のころは四十代半ば。大きな鷲鼻が特徴的で、冷ややかな灰色の瞳にはなんの感情も浮かんでいない。
その視線に、魔塔の主は冷や汗が止まらない。
「祖父の代から研究してきているにもかかわらず、いまだにその程度とは……やはり魔塔の主は荷が勝ちすぎていたのではないのか。……どう思われるか。伯父上」
そう呼ばれた魔塔の主の握りしめていた手に、いっそう力が入る。
――忌々しいくらい、亡き弟にそっくりだ。
魔塔の主は先代の皇帝の腹違いの兄にあたる。公爵家出身の皇妃から生まれた弟と違い、身分の低い愛妾から生まれたため、皇帝になれなかった男だった。
「先々代が甘やかした結果がこれだ……ガバニーニ」
「はい」
皇帝に呼ばれた侍従が、恭しく大きなトレーに乗った書類を持って現れた。
「これは、数日前に届いた研究施設の責任者のワニアンからの報告書だ」
魔塔の主は、その言葉にピクリと肩を震わす。
「今回の実験は成功率が高く、必ず『勇者』を『召喚』すると書いてある。実験の日程はすでに過ぎているのに、その結果が報告されていないのは、どういうことだ」
――ワニアンの奴め! なんという大言壮語しおって!
「皇帝陛下、研究施設からの連絡がないのに、報告などできましょうか。それに、そもそも『勇者』を『召喚』するなど、現段階では無理です!」
「ハッ、もしや成功したのに報告しないということか」
「違います!」
魔塔の主の叫ぶ声があがった時、それは起きた。
ガラーンゴローン
ガラーンゴローン
皇都中の教会の鐘が鳴りだしたのだ。
「……何事だ」
「わ、わかりません」
ドドーンッ
ドーンッ
教会の鐘が鳴り続ける中、今度は身体を震わすような激しい爆発音が聞こえてきた。
「今度は何だっ!」
皇帝の怒鳴り声が謁見の間に響く。それに応えるように、騎士たちが謁見の間に駆け込んできた。
「へ、陛下、魔塔で……魔塔で爆発が起きたようです!」
「何だと」
魔塔の主は、慌てて立ち上がろうとした時。
『お前たちはやりすぎた』
いきなり甲高い子供の声が謁見の間に響いた。
「だ、誰だっ」
護衛の騎士たちが剣を抜き、周囲を見渡している。
『我の世界を傷つけたのだ。相応の報いを受けてもらおうか』
「な、なんだと……う、うわーっ!」
謁見の間の石の床が一気に黒い澱みに変わり、その場にいた者たちは全てその中に飲み込まれていく。
その中には魔塔の主も、皇帝も含まれている。
「た、たすけて………」
「助けてくれっ!」
「あ、……う」
魔塔の爆発音が消える頃には、謁見の間には誰もいなくなっていた。