作品タイトル不明
第532話 『魔王の卵』
上空に浮かぶのは、相変わらずの遮光器土偶。前に見たときよりも、随分と小さい。ちょうど『魔王の卵』と同じくらいの大きさか。
獣人たちはすぐさま跪いたけど、モリーナとドレイクは大口を開けて固まっている。
『久しぶり~』
「どうも~」
遮光器土偶の姿に似合わない甲高い声に、私の顔には苦笑いが浮かぶ。
『で、「魔王の卵」の件だけど』
ふよふよとモリーナの腕の中の黒い卵のところまでやってくる。
『エイデンの言う通り、この『魔王の卵』は、別世界から召喚されたもので間違いない』
じーっと『魔王の卵』を見つめる遮光器土偶……あの目で本当に見つめてるかどうかはわからないけど。
『まったく、人族が何やらこそこそやってると思ったら、私の世界に穴をあけやがって』
表情のわからないイグノス様が、声だけは不機嫌そうにぶつぶつと文句を言っている。
詳しく話を聞くと、『魔王の卵』の召喚のもとになっている別世界というのは、イグノス様の世界や私のいた世界なんて比べ物にならないくらい危険で物騒な世界なのだそう。
その世界は強力な魔王によって支配されているらしい。
肝心のこの『魔王の卵』だけれど、元々、『魔王の卵』は多数存在しているそうだ。
その中で無事に生まれるかどうか、成長し生き残れるかどうかで、次代の魔王が決まるらしく、1つや2つ無くなっても、あちらでは大した問題にはならないらしい。
『この「魔王の卵」は、その中でも一番小さく、弱かったから召喚できてしまったというわけ』
弱くてアレって、その魔王の世界って、どんだけ恐ろしいとこなんだよ、と、血の気がひく。
やらかしたのは、やはり帝国で、その中でも魔塔と言われる魔術師がいっぱいいるところなのだそうだ。
それも何が質が悪いって、本来魔法陣に書く召喚する世界の座標と対象となる相手を書き間違えていたらしい。
間違えていなければ、それなりに力のある人間を召喚していたかもしれないというのだ。
『もうさ、あちらの神からは文句を言われるし、穴塞ぐの大変だったしで、僕もけっこう怒ってるんだよね』
とりあえず、帝国のことはイグノス様がお仕置きしてくれるというのだけれど、問題なのは、この『魔王の卵』だ。
「どうすればいいんです? これ」
『とりあえず、五月のところで預かっといてよ』
「は?」
『いや、もう穴塞いじゃったし、戻すの大変なんだよ』
「いやいや、塞ぐ前に戻せばよかったんじゃ」
『そんな余裕はなかったのー』
――イグノス様が余裕を失くすような状態だったの!?
唖然としていると、モリーナの腕から『魔王の卵』が浮かんで私の目の前にやってきた。飛んでいく『魔王の卵』にモリーナは、あわあわと慌てている。
『はい。ちゃんと受け取って~』
「うわ」
とすんと腕の中に落ちた『魔王の卵』だったが、なぜか黒かった卵が徐々に色が薄れていく。ついには綺麗な薄いアイスグリーンに変わっていく。
「え、ちょ、どういうこと」
『これで、『瘴気』は完全になくなった。生まれるまでは五月の元に置いておくように』
有無を言わせぬ厳かな声に、私も反論できない。
『さてと、ここも五月の土地となったな。後で稲荷から契約書更新するように言っておくから』
「あ、はい……ところで、なんで遮光器土偶なんですか」
「シャコウキドグウ?」
前から気になっていたことを聞いてみた。
聞きなれない言葉なのか、エイデンが繰り返す。
『それは、カッコいいから!』
自慢気に言うイグノス様のセンスは、よくわからない。