作品タイトル不明
第526話 モリーナの発明品
ユグドラシルの苗木は、にょきにょきと生えていく。
早送りで成長している姿を見ているようで、なんとも不思議だ。そのペースの早さに、あっけにとられる。
「……桜の苗木のペースとは段違いだわ」
思わず見比べた桜の苗木は、私の膝くらい。
一方のユグドラシルは、すっかり1本の木に育っている。ふさふさと緑の葉まで生えている。
そのおかげもあってか、『瘴気』の減る勢いも違う。最初に植えた桜の木のあたりと変わらないくらいまで減っているように見える。
これだったら、エイデンの結界を外しても大丈夫かもしれない。
ついて来てくれたビャクヤの背に乗り、エイデンのもとに戻る。
「モリーナ、ドレイク、ありがとう! ユグドラシルの木は凄いわ」
「いえいえ」
「よかったです」
「エイデン、これで結界を外せるんじゃない?」
「ああ」
私の言葉で、エイデンはすぐに結界をはずした。『瘴気』がモヤモヤっと蠢いているけれど、すでに桜の木の浄化のおかげもあって中央のほうに縮んでいるように見える。
「あとは中央の発生源を確認だな」
「でしたら、私もご一緒させてくださいっ!」
なぜか笑顔で声をあげたモリーナ。
「モリーナは結界はれるの?」
「いえ、できません」
「え」
いやいやいや。もしかして、エイデン頼み?
「私にはコレがあるんで」
彼女の手元には、何やら四角い黒い箱がある。なんだろう、薄っすらとグレーの模様が浮かんでいる。
「それは何?」
「ふふふ、これはですね、『瘴気』を集めて『魔石』に変える魔道具です!」
私にはただの四角い箱にしか見えないのだけれど、モリーナは自信満々だ。
「へぇ! そんなことができるの?」
「私の新作ですから、間違いありませんっ!」
「え」
モリーナといえば、新しく物を作るよりも既存の物を改造するほうが向いている、と思っていた。
「動作確認は」
「大丈夫! できるはずです!」
――確かめてないのかよっ!
そもそも、あの山に住んでて『瘴気』が発生しているところなんて見たことはない。そこで動作確認なんかできるわけがないのだ。
しかし、自信満々なモリーナはその箱を持って、エイデンに「さぁ、行きましょう!」と背中を押している。
もしかして、ここで動作確認するつもりなんだろうか。
「エ、エイデン」
「……まぁ、大丈夫だろ(俺の近くにいる分には問題はなかろう)」
本当に大丈夫なのか不安でしかないけど、ヤル気のモリーナは止まらない。
「行きますよ!」
「ああ」
エイデンが先に入っていき、その後を嬉々としてついていくモリーナ。
――本当に大丈夫なのかなぁ。
黒い靄の中に二人が入っていった。
* * * * *
半円形の結界に守られているエイデン。その中にはモリーナも含まれている。
「……上手く動いてるようだな」
「はいっ!」
靄の中に完全に入り込んでから、モリーナが結界の外の地面に四角い箱を置いた。
箱には白く紋様が浮かび上がっている。
しかし、すぐにピカッと赤く光った。
「終わりました!」
蓋を開けると箱の中には掌サイズの黒い石が入っている。モリーナは嬉々として黒い石、魔石を取り出す。
「ほお。随分と大きな魔石になったな」
「ええ、でも、全然、減りませんね。『瘴気』」
「その程度では無理だろ」
「ですよねぇ……」
地味に凹むモリーナ。
エイデンはむしろ、成功したことのほうに驚いている。
「この規模ではこの箱じゃ足らないんだろう」
「……そうですよね! じゃあ、もっと大きいのを作れば」
「それは、後にしてくれ」
「あ、は、はいぃぃ」
エイデンの真剣な声に、さすがのモリーナも顔を引きつらせたのであった。