作品タイトル不明
<エイデン>
ドグマニス帝国には、ダンジョンが4か所存在する。
ビヨルンテ獣王国に接する辺境伯領に1カ所、北部の海近くに1か所、王都の近くに1か所、そして南の隣国との国境近くに1か所だ。
中でも最大で最深と言われているのが南のダンジョンであり、今日エイデンたちが潜っているダンジョンだ。今まさに彼らがいるのは9階でフロアボスを倒したところだ。
床にはフロアボスのゴールデンブルの亜種の肉の塊が転がっている。ネドリたちの身長くらいある塊肉に、皆のテンションはあがっている。
「次は鉄鉱石が多く出るフロアだ」
「そういえば、ヘンリック殿が欲しがってたな」
「フロアボスはアイアンゴーレムじゃなかったか?」
「確か斃せば、稀にミスリルが出るって聞いたぞ」
おおー、という歓声があがる。
ミスリル鉱山は大概が国に押さえられているので、冒険者が手に入れられるのは、こういったダンジョンだけなのだ。
「エイデン様とご一緒できなければ、ここに来ることはなかったでしょうな」
ネドリが朗らかな声で言うと、同行している獣人たちからも同意の声があがる。
今回の目的は、この春に生まれてくる赤子たちのための守り石を得ることだった。守り石とは、鉱石が採れるダンジョンにのみ生息しているクリスタルリザードと呼ばれるトカゲの魔物の額に埋め込まれている魔石のことを言っている。
この守り石を生まれてから3年間付けることで、その間は病や怪我から守られる、と思われているのだ。
以前であれば獣王国の中のダンジョンに潜っていたのだが、今回は同じように鉱石が採れる、大規模な帝国の南のダンジョンにやってきたのだ。
実際、この大きさのために多くの冒険者がいると思いきや、ダンジョンに向かうまでの行程がかなり厳しいこともあり、それほど多くはなかった。
「俺もついでなのだし、気にするな」
エイデンは去年の年末に五月にジュエリーボックスをプレゼントした。しかし、普段の五月が宝飾品を付けているところを見たことがなかった。
――お守りだと言ったら、五月も付けてくれるのではないか。
そういう思いもあって、今回、ネドリたちと一緒にやってきたのだ。
肉の塊はネドリのマジックバッグにしまわれ、いざ、10階へ向かおうと階段を降り始めた時。
『エイデン様っ!』
ノワールの必死な声がエイデンの頭の中に響いた。
「うん?」
「……どうかされましたか」
前にいた獣人がエイデンの方を振り向いた。
「うむ、まずいな」
エイデンの視界にはノワールの目に映っている風景が見えた。瘴気によって木々が徐々に黒く染められていく様子に、顔を歪める。
「ネドリ」
「はいっ!」
先頭にいたネドリが振り返る。
「この先、お前たちでもいけるか」
「何かございましたか」
「うむ、少しばかり、外に行かねばならん」
「大丈夫です。我らには五月様のご加護がありますから」
ニカッと笑いながら、腕につけた五月特製ミサンガを見せる。同じように同行している獣人たちも腕をあげてみせた。
「そうだな」
そう言いながら、エイデンも自分に左手首にしているミサンガに触れた。
「では、行けるところまで先に進んでくれ。後から追いかけよう」
「はっ! お気をつけて!」
ネドリ達の声を背に、エイデンは猛スピードで出口の方へと向かうのであった。