作品タイトル不明
<ノワール>
冬の青空を大きな黒いドラゴンが飛んでいる。艶やかな黒い鱗に日差しが当たって、キラリと反射する。
荒れた地を走る馬車を操る御者が、ドラゴンの姿に気付いて必死に馬を走らせる。
そんな馬車を気にすることもなく、黒いドラゴン……ノワールはグンとスピードを上げて飛んでいく。
最初は五月の傍にいたこと、次にエイデンと行動を共にするようになったせいで、身体が大きくなりすぎたノワール(いいものを食べ過ぎているという説)。
卵からかえってたった1年半で、五月のログハウスよりも大きくなってしまい、敷地にも降りられなくなってしまった。
その上、上空でホバリングするための羽ばたきで、ちょっとした暴風が起きてしまうので、敷地に近づくこともできなくなってしまった。
最近はその鬱憤を晴らすように空を飛び、魔物を見つけては狩り、大物が獲れたら村に持っていく。タイミングが合って五月がいれば彼女に直接渡すけれど、多くは獣人たちに渡して五月に届けてもらっていたりする。
――エイデン様みたいに、人型になれればいいのに。
――それが無理なら、身体が小さくなれたなら、五月のそばにいられるのに。
最初のうちは、世界中を飛び回るのは楽しかった。北の果てから、南の先端まで、エイデンと共に世界の大きさを実感した。
そのエイデンの後を追い、一緒に魔物を討伐するのも楽しかった。小さい身体の時は難しかった大物(トロールやオーガキング等)も、今では一撃の元に斃している。
いつでも五月とは一緒にいられると思っていたのに、自分で身体を大きくしてしまって、そばに居られなくなってしまった。
その上、今まではエイデンたちと共にダンジョンにもついていけたのに、それも出来なくなってしまった。
今日はエイデンやネドリたちがダンジョンに入っているので、ノワールは一人ぼっちだ。
――つまんないな。
そう思いながら空を飛んでいると、緑の木々が広がる森林の中に黒ずんだ木々が密集している場所があるのに気が付いた。
そこはドグマニス帝国の南の端の山脈近くの広大な森。実は、この山をいくつか越えると、五月の山やコントリア王国にも繋がっている。ただ、かなり標高のある山なので、これを越えようとしてまで、侵略する余裕は帝国にはないおかげで、戦争にまでは至ってはいない。
――なんだ。あれは。なんか気持ち悪いぞ。
古龍の力を分け与えられているノワールは、マリンのような聖獣同様に瘴気を放つモノを感じ取る力に長けている。
気持ち悪さを押さえながら、黒ずんだ木々の上空まで飛んでいくと、案の定、黒い靄(瘴気)がじわりじわりと広がっているのがわかった。
その広がるスピードは速いわけではないが、ドンドンと広がっている。
――なんで、あんなところで大量に瘴気が湧いてるんだ?
気になったノワールが下降しながら、じーっと瘴気の中心を見つめていると、いきなり黒い靄が凄いスピードで上空にいるノワールに向かって伸びてきた。
『うわっ』
慌てて上昇するノワール。黒い靄は離れていくノワールを追うように伸びたが、途中で諦めたかのように霧散した。
『なんだ、アレ』
けして怖かったわけではない。どちらかというと嫌悪感だ。
――消してやるか。
単純なノワールは、よく考えもせずに口から『業火』と呼ばれるブレスを放った。
ドガーンッ
大きな爆音とともに巨大な火柱があがった。
――消え……てない!?
瘴気で黒ずんだ木々はそのままで、周囲の緑の木々の方が燃えている。
『なにやってんのよ』
『のよ!』
風の精霊たちがノワールに怒鳴りつける。
『かじになるわ!』
『けさなきゃ!』
ポカポカと精霊たちに叩かれて、驚きで固まっていたノワールも慌てて水魔法で火を消し止めた。
『うわ、やばいっ』
火が消えた後の燃え後に、瘴気がスピードをあげて広がっていく。
それも……五月たちの山のある方へ。
――あのスピードだったら、すぐにどうなるでもないけれど、なんかまずいってことはわかる。
『エイデン様っ!』
焦ったノワールは、ダンジョンの中にいるはずのエイデンに向かって、呼びかけるのであった。