作品タイトル不明
第511話 エイデンからのプレゼント
リビングにはニコニコしているエイデンが座っている。
――なんか、部屋が狭いな。
以前、ログハウスが出来たばかりの時に稲荷さんを家にあげたことはあったけれど、その時はそれほど感じなかった。稲荷さんはひょろりとした感じなのに対して、大柄で威圧感のあるエイデンだと感じ方が違うのかもしれない。
なぜエイデンを家にあげたのかといえば、あの寒い雨の中、玄関に立っていたから。
まったく濡れてはいなかったけれど(結界みたいなモノでもあるのだろう)、見るからに寒い格好をしている彼を、そのまま追い返すほど鬼畜ではない(本人曰く、寒さをまったく感じないらしい)。
そして、リビングで胡坐をかきながら、興味深そうに部屋の中を見回している。
おせちを作っているので、気分は純和風。なので、コーヒーではなくお茶をいれることにした。湯呑は、大きめのサイズで魚偏の文字がいっぱい書いてあるヤツ。
「はい、お茶」
「お、ありがとう」
湯呑に熱いお茶をいれたけれど、エイデンには関係ない模様。何も言わずに、ごくりと飲んだ。
「なんか、いい匂いがするな」
「……煮物を作ってるからね」
目がキラキラと期待の眼差しを向けるのはやめてくれ。
「まだ味が染みてないと思う」
「五月が作ったのなら、なんでも美味しい」
「あれは、正月用のおせちだから」
「おせち?」
「あー」
上手く説明できる気がしない。
「なんていうか……新年に食べる物よ。その間はお料理しないで楽するために、たくさん作っておくの」
「たくさんあるのか?」
――どこの子供だ。
「……はぁ。味見する?」
「ああ!」
仕方がないのでキッチンに行って、筑前煮の入っている鍋を再び温めて、小皿に里芋とゴボウ、ワイルドコッコの肉をのせる。
「そ、それだけか」
「味見って言ったでしょ」
残念そうな顔をされたが、譲るつもりはない。
小皿と箸を渡すと、嬉しそうに食べ始めた。
――いつの間にか、器用に箸を使うようになったもんだ。
そんなことを思っているうちに、小皿は空に。私は箸と小皿を受け取り、さっさとキッチンに戻る。
「で、用は何?」
「あ、そ、そうだったのだ」
エイデンは慌てて空間収納から何やら木箱を取り出した。大きさから言うとA4サイズくらいありそう。
「何、それ」
「たまたまケイドンの街の店で見かけてな」
箱の蓋をあけると、中は緩衝材なのか、綿のようなものが詰まっている。それをよけて取り出したのは、玉虫色の箱。見事な虹色に思わず、息が止まった。
「ジュエリーボックス?」
「ああ」
エイデンは優しく取り出してテーブルの上に置く。足の低い木製の四角いテーブル(ドワーフ製)は庶民感満載で、ゴージャスな玉虫色の箱とのバランスが悪すぎる気がする。
「どうしたのよ、これ」
「うん? いや、綺麗だったから買ってみた」
「へぇ」
エイデンでも街でこんな買い物をするんだ、と感心していたら。
「五月にやる」
「……は?」
「プレゼントだ」
「いやいやいや」
見るからに高そうなコレを、意味もなく簡単に受け取れるわけがない。
「俺は使わんが、五月だったら気に入るかと思って買ったんだが……」
エイデンは、まるで大型犬が耳を伏せてしゅんとなっているような姿に見える。
「五月がいらないんだったら、捨てる」
「ちょ、ちょっと! これ、そんな簡単に捨てるような物じゃないよね!?」
こっちの物価はいまだによくわかっていないけれど、そんなに安い物には見えない。どう見ても、職人さんの力作って感じのジュエリーボックスだ。
「だって、五月はいらないんだろう? 他の誰かにやるくらいだったら捨てる」
「はぁ」
エイデンだったら、あっさり捨てるだろう。
「わかったわよ。ありがとう」
「うむっ!」
満足そうなエイデンに、なんか、してやられた感が否めない。
――まぁ、いいか。
少し遅いクリスマスプレゼントか(エイデンがクリスマスを知っているかはわからないけど)。
そういえば来月は、私の30回目の誕生日がある。いよいよ三十路。早めの誕生日プレゼントをもらったってことにしておこう。
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ちなみに、五月の誕生日は1月19日です。
元々冬生まれの設定でしたが、今回の書籍化に伴い、日付も決めました。