作品タイトル不明
第499話 遅ればせながらのクリスマスケーキ
そして、ケイドンの街から戻った翌朝。
いつも通り東屋には、牛乳瓶が2本置かれている。だいぶ寒くなったのに、欠かさず運んでくれるマカレナたちには感謝だ。
昨日引っ越してきたマグノリアさんたちのことは、ピエランジェロ司祭や孤児院の子供たちに任せたので、大丈夫なはずだ。
「うう、寒いっ。まだ霜はおりてないけど……早いところ、温室作んないと枯れちゃうんじゃない?」
冷たい牛乳瓶を手にしながら、敷地にあるアボカドとマンゴーの苗木に目を向ける。緑の葉は生い茂り……精霊たちがうようよしているので、大丈夫なのかもしれない。
ログハウスの中に戻り、久しぶりにスマホの電源を入れた。毎日聞いているわけではないけれど、今朝はなんとなくBGMでも聞きたい気分だったのだが。
「えっ」
画面に表示された日付を見てびっくり。
――ヤバっ、クリスマス過ぎてた!
こちらにクリスマスの風習がないから、気にしてなかった。買い出しに行った時には、散々クリスマスケーキを作ろうと買い込んでいたのに。
去年は色々皆にプレゼントを用意してたのに、今年は色んな忙しさにかまけて、すっかり忘れていた。ケイドンの街で何か買って来ればよかった。
しかし、もう今更なので、手元にある何かで何とかするしかない。
「……やっぱりここは、ケーキでしょ」
本当ならホールケーキにしたいところだけれど、数を作れるほど、うちの薪ストーブは大きくはない。
うんうん唸って思い出したのは、どこかのレシピサイトに載っていた細長いショートケーキ。確かあれはスポンジ生地はホットケーキミックスで、天板に流し込んで焼いていたはず。
「あれ、レシピ保存してたっけ」
私は必死になってダウンロードしてないか、メモってないかと探したけれど見つけられなかった。
――ここはもう、自力で挑戦するしかない。
私はタブレットの『収納』の中身を確認することにした。
結果。細長いケーキは夕方近くになって、ようやく出来上がった。合計5本。
残念ながら、生クリームの量が足りなくて(念のために買っておいた市販の生クリームのパックが役立った)薄くしか塗れなかったけれど、その代わりに果物やジャムをたっぷり使ったケーキが出来上がった。
所々に焦げがあったりはしたものの、私にしては、超力作が出来上がった。
「これ、一人に一本?」
そう聞いてきたのはガズゥ。
彼の口元にはスポンジの欠片がついている。ケーキに生クリームを塗った後に四方を切り落としたのを、食べたのだ。
同じように口や手に生クリームやジャムをつけている子供たちの目がキラキラしている。
東屋の脇の薪ストーブからただようスポンジの焼ける匂いにつられてやってきたガズゥたち(さすが獣人)と、そのガズゥたちについてきた孤児院の年少組の子供たちだ。
そんな彼らが果物の盛り付けを手伝ってくれたので、日が落ちる前に出来たのだ。
「違うよ~、これは切るの。これだと6個くらいにはできるかなぁ」
そうすれば、子供たちの分くらいは分けてあげられるはず。
できるだけ均等に切り分け、紙皿に載せては『収納』にしまう。
「あー!」
「しまっちゃうのー?」
すぐに食べられると思ってたのだろう。子供たちから残念そうな声があがる。
「違うわよ、村にいってお姉ちゃんやお兄ちゃんたちにもあげないとダメでしょ?」
私の言葉に子供たちが、あっ! という顔になる。
「さぁ、暗くなる前に村に行くわよ」
――まだ片付け終わってないけど、まぁ、いいか。
東屋のテーブルを気にしつつも、私は子供たちの背中を押した。