作品タイトル不明
第494話 ガラスを手に入れる(4)
今、私の目の前で、ピエランジェロ司祭と工房の親方、ホンザさんが、お互いにペコペコと頭を下げあっている。
「いやぁ、せっかく司祭様からの仕事の紹介なのに、本当に申し訳ない」
「いえいえ、領主代行のお嬢様のご結婚のことを知らなかった私の落ち度です」
司祭が店に入ってきたとたん、接客していた女性が慌てて作業場のほうにホンザさんを呼びに行ったのだ。
ツンツンに尖った白髪の短髪のホンザさんは、見るからに『親方』という言葉が似合う、がっちりした体格のオヤジさんって感じ。あんな繊細なガラス細工を作るようには見えない。
しかし、見た感じ、50代くらいで、まだまだ働き盛りに見えるのに、王都からこんな辺境に戻ってくるなんて、何かあったのだろうか。少し勘ぐってしまうが、空気の読める大人の私は聞きはしない。
「だが、お急ぎなんですよね」
ホンザさんが私のほうへと目を向ける。
「まぁ、早いにこしたことはないんですが、一応、別口で見込んでいるところがあるにはあるんで、お気になさらずに」
「そうですかい?」
そこで、少し考え込むホンザさん。何か思いついたのか、後ろに控えていた女性に声をかける。
「おい、そういやぁ、あいつんとこはどうなんだ」
「あいつ……ああ、アダーモさんですか? そういえば、最近、顔を見てませんね」
「アダーモ?」
「ええ、実は、少し前にうちから独立した奴でして。長年、うちで頑張ってたんですが、こいつが、なかなか見込みがある奴でして」
自慢げに語るホンザさん。
すぐに誰かがアダーモさんの工房へと向かったらしく、少しして息をあげた一人の男性が店にかけこんできた。ホンザさんとは対照的にひょろっとした背の高い、見た感じ、年齢は30代くらいの男性だ。
「お、親方、急ぎって、な、なんすかっ」
「おお、アダーモ、すまんな。お前んところ、今は忙しいか?」
「いえいえ! 何か、お手伝いですかい?」
そこでようやく、私たちの存在に気が付いたのか、ペコリと頭を下げた。
「ああ、こちらのお嬢さん……お嬢さんでいいんだよな?」
「あー、えーと、はい」
どうも見た目がシャツにパンツという女性らしからぬ格好と、短い髪のせいで、最初は男性と思われてしまったらしい。私の話し声で女性ってわかったようだけど。
「このお嬢さんから板ガラスの依頼があってな、うちじゃ今の仕事で手一杯で受けられねぇ。もしよかったら、お前んとこでやってもらえないかと思ってな」
「板ガラスですか? それでしたら、こちらにも在庫があるんでは」
「1枚、2枚じゃねぇんだよ」
「へ?」
「えーと、最多で40枚なんですけど」
「はっ!?」
アダーモさんは固まってしまった。
結局、アダーモさんは仕事を受けてくれることになった。
ただ、原料の在庫の問題で、40枚は無理とのこと。その半分だったらなんとか、というので、それでお願いした。納期は5日後、その時に出来ている分だけでいいので、ということにして受け取りに来ることにした。
足りなかったら、残りはエイデンたちが狩ってくる魔物素材に期待しよう。
気分よく店を出た私たちは、少し遅い昼食をとるために、食事処を探しに街の中央の方へ向かうことにした。
相変わらず、ピエランジェロ司祭は人気だが、司祭の後ろをスコルが歩くようにしたら、近寄ってくる人が少し減った。確かに、パッと見たら威圧的で怖そうかもしれない。
司祭が案内してくれたのは、ちょっと古びた外観の店構えながら、中に入ってみると家庭的な雰囲気の食堂だった。
壁にメニューが書かれているんだけれど、相変わらず読めない私はメリーと同じ物にした。
「……マーク、どうしたの?」
実は工房を出た後、マークだけが少し暗い顔をして後をついてきていたので気になっていたのだ。
「あ、いえ……」
否定してはいるものの、隠しきれていない。
じーっと見つめていたら、諦めたのか、大きくため息をつくと、下を向いたまま話し始めた。