作品タイトル不明
第493話 ガラスを手に入れる(3)
司祭と別れて、ものの数分で目的のガラス工房に到着した。
「こんにちはー!」
マークの元気な声が薄暗い工房に響く。
ここは接客をする場なのか、お店のように、いくつか見本らしい大小様々なグラスや、ステンドグラスのような繊細な感じの板ガラスが置かれている。お客さんは私たち以外にはいない。
「凄いわね」
「でしょ? ここの親方は元々王都に工房を持ってた人らしいです」
マークは自分のことのように自慢気に、ここの親方のことを話し始めた。
なんでも、王都の工房は弟子に任せて故郷に戻ってきたのに、結局、ここでも工房を始めてしまったという。よっぽど、ガラスの仕事が好きなんだろう。
確かに見本のガラスを見たら、マークが自慢したくなるのもわかる気がする。ここのガラスに比べたら、ヨハンさんのガラスは無骨な感じだ。
……ただ、ここのは繊細すぎて、すぐに割れそうだけど。
しばらく待ったけど、何の反応も返ってこない。奥の方に人の気配はするものの、こっちには気付いていないようなので、マークは奥に見える部屋の方に身を乗り出して声をかけた。
「こんにちはーっ!」
「あ゛ぁ? 飯時にうるせぇなっ……って、マークじゃねーかっ!」
どこのヤ〇ザだよ、というくらい、物騒な唸り声が聞こえたかと思ったら、現れたのは寒い時期だというのに上半身裸の汗だくの若者。
「イルジー兄さんっ!」
「なんだ、おめぇ、司祭様と一緒に街を出たんじゃ……」
「そうだよ、でも、あの、それよりもお客さんがいるんで、そのっ」
「客? ……あ、す、すみませんっ、ちょ、ちょーっとお待ちくださいっ!」
私とメリーの存在に気付いたのか、先ほどまでの粗暴な感じから一変、慌てて奥に引っ込んだ。
昼飯時だったのか、と、ちょっと申し訳なく思っていると、今度は私と同世代くらいの女性が現れた。
「お待たせして、すみません。どういった商品をお探しですか」
シンプルな板ガラスを大量に欲しい旨を伝える。在庫があるなら、それでもいいのだけれど、ここには置かれてはいない。
「納期はいつまで……」
「早ければ早いほどありがたいんですが」
そう答えると、ちょっと困ったような顔をされてしまった。
「何か問題でも?」
「実は今、領主代行のお嬢様のご結婚のお祝いの品を頼まれておりまして……」
なんでも引き出物のような物がこちらにもあるようで、結婚式の招待客に配る物なのだとか。それだけ、ここの親方が凄い人なんだろう。
店の方ではわからなかったけれど、裏の方では弟子たち総出で、てんやわんやの状態らしい。先程のイルジーさんも、たまたま食事をとりに来たタイミングだったのだとか。
「そうなんですね。うーん、仕方がないか」
「サツキ様」
「気にしないで、マークくん。これはもうヨハンさんと、エイデンに頑張ってもらうしかないでしょ」
「申し訳ございません」
仕方がないので、戻ってピエランジェロ司祭と合流するか、と店を出ようとしたところで、その司祭がスコルと一緒に中に入ってきた。