作品タイトル不明
第489話 温室を作ってみよう(1)
モリーナがバカみたいに明るい魔道具のガーデンライトを作る、少し前。
すでに果樹園のみかんや立ち枯れの拠点周辺のオレンジの収穫も一段落した。さて、次は何がある? と考えた時、ログハウスの軒先に並べて置いてある、マンゴーとアボカドの苗木のことを思い出した。
土の精霊のヤル気のおかげで無事に芽が出てきて、今では私の腰くらいの高さまでは成長してきている。
最初の頃は地植えしようと思ったものの、そもそも、マンゴーもアボカドも寒さには強くないらしく、冬場は雪が降るくらいには気温が下がるここで越冬できるのかわからなかったので、まだ植木鉢に植えたままの状態なのだ。
「はぁっ」
苗木の前で、息を吐き出す。白くなるくらいに、すでに寒い。
日当たりがいいおかげなのか、精霊たちのおかげなのか、まだ枯れたりはしていないけれど、そろそろ霜がおりてもおかしくはないし、霜枯れしてしまうかもしれない。
――やっぱり、温室があったほうがいいよねぇ。
久々にタブレットの『タテルクン』のメニューを広げてみる。
今ではKPが貯まりに貯まって、建てようと思えば素材さえあれば何だって作れる。それこそ、お城だって(作るつもりはない)。
「あ、あった」
ちゃんと『温室』もメニューにあった。
屋根の形ごとに分かれているようで、それぞれにサイズがあるようだ。鉢植えの花とかサボテンを飾るような小さな物から、巨大なビニールハウスなんてものまである。
さすがに、そんな大きな物は必要ないけれど、小さくても、車庫として使っている『小屋』くらいの大きさの物があるといい。
「えーと、片屋根式,両屋根式,駒型,ドーム型……どれがいいんだろう?」
私の頭には、ビニールハウスのように中央が高くなっているタイプが頭に浮かぶ。これは両屋根式というらしい。
――これだったら、苺のプランターも置いてもいいんじゃない?
ビニールハウスの苺狩りのイメージだ。
両サイドの窓際のところに苺のプランターを並べて、中央の一番高いところに、マンゴーとアボカドの鉢植えを置く。
――いいんじゃない?
失敗しても、作り直せばいい。
それができるのが『タテルクン』のいいところだ。
――問題は素材だ。
メニューに書かれている素材は、基本は異世界仕様。
土台になるレンガやコンクリートの材料(セメントや石等)、枠になる木に関しては、すでに『収納』に入っている。
問題はガラスの部分。さすがにガラスは『収納』の中には入っていない。
壁面はほぼガラス張りになるわけで、建物の大きさを考えるとかなりの枚数が必要になる。
――ドワーフのヨハンさんに聞いてみるか。
ドワーフたちの多くは鍛冶をやっているけれど、木工が得意なエトムントさんや、ワイン造りのタイーシャさん同様、ヨハンさんはガラス造りが得意なのだ。
村に赴き、ドワーフの家が集まっている方へと向かう。
今はゲインズさんの芋焼酎を作る道具(たぶん蒸留の道具)を作るのに忙しくしているようで、半分くらいはそっちに行っているらしい(ヘンリックさん談)。
ゲインズさん専用の作業場所に行ってみると、ドワーフたちが集まっている。
「ヨハンさん、いますか!」
ヘンリックさん以外は見分けのつかない私は、ヨハンさんの名前を呼ぶと、トコトコと一人のドワーフが駆け寄ってきた。
「サツキ様、何か御用で?」
「忙しいところ、ごめんなさい」
私が温室を作ろうとしていること、それにガラスが必要なことを伝える。
「なるほど、そりゃぁ、随分と大量に必要なようですね」
そう言って、うーん、と考える。
「難しい?」
「いや、出来なくはないですよ? ただ、俺一人でとなると時間がかかりまさぁ」
「あー、そりゃ、そうね」
大きい1枚ガラス自体が難しいのだそうだ。
「どこかで買い付けてくるか……あとは別の素材にするか」
「別の素材?」
「へぇ。確かに貴族の家なんかには、ガラスの温室なんて高級な物をお持ちのところもありますがね。ガラスの代わりに魔物の素材を使うなんていうのもあるんですよ」
「え!」
まさかのガラスの代用品に、魔物素材が出てくるとは思いもしなかった。