作品タイトル不明
第483話 ベビーラッシュと、新しい葡萄畑
最近は、今にも雪が降りそうで降らない、そんな感じのどんよりとした曇天が続いている。
「か、風、冷た~っ!」
ホワイトウルフの毛で編んだネックウォーマーで首元は防寒しているけれど、顔にあたる風は冷たい。
今私は、タイーシャさんとドレイクと共に、エイデンの山の南側の斜面に葡萄畑を作っている。
すでに大きな木は『伐採』済み。ここからだと、立ち枯れの拠点が丸見えだ。
なぜこの山の斜面なのかというと、土の精霊たちが、日当たりのよさと土の養分がたっぷりなこと、そして何よりもエイデンの存在のおかげで魔素に溢れているからと、ここを勧めてきたのだ。
確かにエイデンの魔素のおかげで、山の北側にダンジョンが出来ている(私はいまだに見に行ったことはない)。それが葡萄の成長と何が関係してるのか、と思いきや、葡萄の美味しさが段違いなのだという。
立ち枯れの拠点で育てたシャインマスカットも十分に美味しかったけど、もっと美味しくなる、と土の精霊たちから言われたら、やらないという選択肢はない。
最初は、村の近くの平地を村人たち(主にママ軍団)に任せるつもりだったし、お願いもしていた。
しかし、ママ軍団のおめでたが発覚。
コントルとケイト夫婦、ボドルとリリス夫婦の所に続いてのベビーラッシュに村は大盛り上がり。
先の2組の時も盛り上がったけれど、それ以上に盛り上がっているのは、ネドリとハノエさんのところの第2子だというのが大きいらしい。なんでも、ネドリの一族である白狼族では子供が生まれるのは一人というのが普通だったらしいのだ。
おかげで、狼獣人の男たちは、旦那さんたちを引き連れて、獣王国まで出かけている。なんでも、狼獣人の妊婦に食べさせるといいという食べ物があるらしい。
ママ軍団は妊娠初期ということもあって、大事をとって大人しくしている。特にハノエさんはガズゥの時が大変だったそうで、ちょっと精神的に不安定になっているらしい。
だったらドワーフたちに声をかけたら、タイーシャさんとドレイクが手をあげてくれたのだ。
そして棚田のように狭い段々が4つ出来上がり、苗を植え終わっている。
上の3段は赤ワイン用の苗、一番下をシャインマスカットの苗。一度植えれば、タブレットの『ヒロゲルクン』の『苗』で植えられるのは、やっぱり便利だ。
土の精霊だけではなく、光や風の精霊たちが飛びまくっては、何やらやっているようなんだけれど、悪いことではないはずだ。
私の作業の間、タイーシャさんたちは唖然としていたけれど、今更である。
今は植えられた苗に沿って、タイーシャさんたちに果樹用棚を作ってもらっている。私はそれのお手伝いだ。
ちらりと、ドレイクの方へと目を向ける。
マリアンヌさんが帝国に戻って、そろそろ半月が経とうとしていた。彼女がいなくなって、しばらく意気消沈していたドレイクだったけれど、今は落ち着いている。
『エイデンたちがもどってきた』
土の精霊の言葉が聞こえたのか、一番に反応したのはドレイク。気になるのかソワソワしているのが、丸わかりだ。
「行って来たら」
くすくす笑いながら言うと、申し訳なさそうな顔をしながらも、バタバタと村の方へと走っていった。
「あれ、どうしたんですか」
タイーシャさんは精霊の声は聞こえないから、ドレイクがいきなりいなくなって驚いている。
「エイデンが戻ってきたみたいですよ」
「あらら……まだ終わってないのに。五月様、申し訳ありません」
「いいえいいえ」
作業を続けていると、ドレイクが再びバタバタ戻ってきた。顔は真っ赤で、でも、嬉しそうだ。ドレイクの手には封筒が2つ。
「あの、マリアンヌから五月様宛の手紙です」
「え、私?」
――わざわざ私に?
何かあったのか、と心配になったので、すぐさま、タブレットの『翻訳』を使ってみた。
「……うわー」
手紙の内容に、思わず顔をしかめてしまった。