軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

<マリアンヌ>(3)

バカディ・ナルーシス子爵令息。マリアンヌの学年1つ上に在学している。

その彼の周りには、似たようなレベルの友人(女性含む)がいた。マリアンヌにこうして声をかけてきているナルーシス子爵令息の腕には、2人の男爵令嬢が絡みついている。

「戻ってきているなら、私のところにすぐにでも挨拶に来るべきだろう」

忌々しそうに言うナルーシス子爵令息に、周囲の目は呆れたような顔になる。

マリアンヌは、というと、彼の物言いに唖然となってしまっている。

――この人は、いつもこんな風な物言いをする人だったのかしら?

確かに帰省した後、何度か土産を届けに行ったような気もするが、振り返ってみると記憶があやふやな気がしてくる。

「おい、挨拶はどうしたっ」

「そうよ、土産に貴女の家のお酒、持ってきていないの?」

「いつもすぐに届けに来るくせに」

取り巻き連中が偉そうに言ってくるのだけれど、マリアンヌは困った顔をするだけ。

マリアンヌの家の火酒は、そう簡単に土産に持ってくるような物ではない。過去の自分が何やらやらかしていたようで、内心焦るマリアンヌ。

「さぁ、さっさと持ってきなさいよっ」

そう言って、男爵令嬢の一人が軽くマリアンヌの肩を押そうとした時。

「きゃぁっ!?」

マリアンヌに触れる直前に、令嬢が後ろへと勢いよく倒れて……ドンッと尻もちをついた。

「は?」

「何?」

周囲の視線は倒れた令嬢へと向く。

「え、なんで。ちょっと、貴女、どういうことよっ」

令嬢は顔を真っ赤にして慌てて立ち上がって文句を言うけれど、マリアンヌの方も意味がわからず、ポケッとしている。

「おいっ、マリアンヌ、ビビアン嬢に何をしたっ」

「な、何をしたって言われても(されそうだったのは私だし)」

「ドワーフのくせにっ」

今度はバカディ本人が怒りの形相で手を振り上げる。

――あ、これ、本気だ。

マリアンヌは腕で頭を庇おうとした。

「騒々しいですわねぇ……何を騒いでいるのです」

凛とした女性の声が響く。

「……セイギーノ侯爵令嬢」

見事な金髪のドリルヘアに目つきの鋭い女生徒が、高位貴族専用のフロアから数人の令嬢たちを引きつれてゆっくりと降りてきていた。

現れたのは、中立派筆頭のセイギーノ侯爵の嫡女でもあり、第三王子の婚約者でもあるミラリー・セイギーノ侯爵令嬢。

「ナルーシス子爵令息……だったかしら」

「は、はいっ」

階段を下りきったセイギーノ侯爵令嬢は、マリアンヌを庇うように背後に回すと、ナルーシス子爵令息へと冷ややかな目を向ける。

「このような公衆の面前で、幼子に手を振り上げるなど、みっともない」

実際にはセイギーノ侯爵令嬢とは2つしか変わらないのだが、空気の読めるマリアンヌは口をつぐむ。

「紳士としての振る舞いではないのではなくて?」

「え、いや、あのっ、この者がビビアン嬢を突き飛ばしたのです!」

「小柄なドワーフの彼女が、こちらの女生徒を?」

セイギーノ侯爵令嬢は、マリアンヌとビビアン嬢を見比べる。どう見ても、大人と子供ほどの身長差がある。そして周囲を見回すと、生徒たちは顔を横に振っている。

「……ナルーシス子爵令息、その言い訳は無理があるようですよ」

「言い訳などでは」

「周りの皆さんは、ちゃんと見ていらしたようですけど?」

「っ!?」

周囲の冷ややかな視線に、サーッと血の気が引いていくバカディ。

「きっと、勘違い、ですわよねぇ? ねぇ? ビビアン嬢?」

真っ白な顔色のビビアン嬢はコクコクと頷くと、小さくカーテシーをして逃げるように離れていく。バカディたちもセイギーノ侯爵令嬢へと頭を下げると、食堂から出ていった。去り際に、マリアンヌへ舌打ちするのを忘れずに。

「……まったく。貴族としての矜持というのをお忘れのようですわね」

セイギーノ侯爵令嬢の呆れた声と同時に、周囲で見ていた者たちにもヒソヒソと噂話が広がっていくのであった。