作品タイトル不明
第478話 寒い朝
年内最後の買い出しに行った翌朝。
「う、さぶっ」
寒さで目が覚めた私は、肩まで布団をあげる。
窓のカーテンの隙間からは、薄っすらと外の明かりが入ってきている。
『もう、起きるの?』
足元でもぞもぞと動いているのはマリン。どこか寝ぼけたような彼女の声が聞こえた。
外の明るさからいっても、もう起きてもよい時間だ。
「そうね……起きようか」
そう言いながらも、しばらく、ぐずぐずしていたが、えいやっと気合を入れて身体を起こす。
布団の上掛けの上にのせていた半纏を、そのまま羽織って起き上がる。
足元は灰色のムートンのようなラグマット。毛並みも柔らかくて、なかなかの肌ざわりなので気に入っている。村人たちからの頂き物だ。
カーテンを開けて外を見ると、しばらくぶりに雨が降っているようだ。雨と言っても霧雨だ。もう少し寒くなったら、雪に変わったかもしれない。
「はぁ。部屋の中でも息が白いってどうなのよ」
私は肩をすくめながら、1階に降りていく。ちなみに、マリンは私が抜け出した布団の中へと潜り込んでしまった。
人感ライトの明かりが点いたけれど、カーテンも開ける。これで部屋の中がもう少し明るくなる。
「あ、牛乳来てる」
東屋のテーブルに、大きめの牛乳瓶が2本置いてあるのが見えた。
霧雨だし、と、急いで外に取りに行く。瓶が冷たい。朝早くから届けに来てくれたマカレナたちを思い、心の中で感謝する。
「寒い、寒い」
急いで家の中に戻り、牛乳瓶をキッチンのカウンターに載せると、暖炉へと向かう。
暖炉の左脇に積み上がっている薪を数本、暖炉の中に置いていく。暖炉を使う頻度が増えているので、室内のストックが減ってきている。
――後で補充しておかなきゃ。
そう思いながら、次に暖炉の右脇の大きめのカゴから松ぼっくり(私はそう呼んでいるが、こちらにはこちらの呼び名があるらしい)と、ガスライターを手にする。
このカゴは孤児院の女の子たちが作った蔦で編んだモノで、松ぼっくりが山盛りになっている。以前、火種に使えると話をしたら、年長組の子たちと一緒に拾いに行ってくれたのだ。
ころりと松ぼっくりを薪のそばに転がし、ガスライターで火を点けた。
『てつだうぞ?』
『てつだうぞー』
火の精霊たちが嬉しそうに火のついた松ぼっくりの火力をあげるので、一気に薪に火が燃え移った。
精霊たちが嬉しそうに飛び回っているせいか、部屋の中も一気に暖かくなった。
「ありがとう」
『とうぜんなのだ』
『このくらい、たいしたことないの』
『ほかにもてつだうことはないか?』
そう言われても、今すぐに彼らにお願いできるようなことはない。料理の火力をあげられて、真っ黒こげにされてはたまらない(実は、すでに経験済み)。
「気持ちだけ受け取っておくわ。ありがとう」
カウンターに置いてあった牛乳瓶を、タブレットに『収納』すると、朝食の準備を始める。
「今日は、パンにハムエッグでいいか」
買い出しで買い込んだ食パンとハムを『収納』から取り出す。卵は、うちの鶏の卵。大きさ? 量? の配分からしたら、エッグハムかもしれない。
食パンを魔道コンロで軽く炙って、自家製バターを塗ると、ジワリと融けていく。
デザートには、これまた自家製ヨーグルトにハチミツをたっぷりかける。
コーヒーはインスタントのカフェオレだ。
卓袱台みたいなテーブルに、朝食を並べていく。このテーブルはドワーフたちからの頂き物だ。
「さて、食べますか」
『たべて、たべて~』
『おいしそうだぞ』
『いいにおい~』
今日も、美味しい朝食(と、騒々しい精霊たち)から1日が始まる。