作品タイトル不明
第459話 稲荷さんの息子くんと遭遇
軽自動車の後部座席は、いつものごとく荷物でギューギュー。カードの引き落とし金額は……もう気にしたら負けだと思う(遠い目)。
幸いなことに、引き落とし金額よりも入金額の方が多いので、残高がマイナスにはなっていない。ついつい、カードだと買い過ぎてしまうのは、反省しなくては。
キャンプ場の敷地の中の道を走っていると、制服っぽい格好の男の子が黒いリュックを背負って、自転車で走っているのが見えた。
上着は臙脂色、ズボンは濃紺。この辺の学校の制服は知らないから、どこの学校の子かまでは分からない。
――なんで、キャンプ場の道を走ってるの?
この敷地内には個人宅はないと聞いている。
でも、通学用の白いヘルメットを被っている様子は、学校からの帰宅途中のように見える。キャンプ場のバイトをするような年齢には見えない。
ほっそりした体格だけど、背はそれなり高そう。
――高校生くらいかな。
自転車を追い越した時、一瞬男の子と目があった気がした。
季節柄なのか、平日にも関わらず、キャンプ場の利用客は多いようで、カウンターのバイトくんたちは忙しそうにしている。
「手伝わなくていいんですか?」
私の目の前には稲荷さんお手製の煎餅が置かれている。いつもと違うのは、ゴマと七味のかかっているのもあったのだ。
やだ、ゴマ、旨い。
「ああ、もうそろそろ落ち着くだろうしね」
カウンターにいるバイトくんたちは、一人を除き、皆見覚えのない子たちばかり。その一人というのは、私がこのキャンプ場に来始めた頃からいる男の子。よく見るな、と思ったら
、今では正式なスタッフになったらしい。
もしや、と思って聞いたら、ちゃんと現地人だと教えてくれた。『現地人』って、と思わず笑いそうになってしまった。
煎餅を食べながら、近況報告。帝国が色々やらかしてて、厄介だという話をしたら、稲荷さんの背後に真っ黒なオーラが立ち昇っているように見えた。
……帝国崩壊まで秒読みなんじゃ、と思った。
そろそろお暇しようか、とお茶を飲み干していると、カウンターの後ろにある事務所の方から、男の子が一人出てきた。
「父さん」
「ん? ああ、大地か」
――と、父さん!?
思わず、稲荷さんを二度見してしまった。
そして『父さん』と呼んだ男の子は、さっき追い越した自転車に乗っていた男の子だ。
「え、もしかして、稲荷さんの息子さん、ですか」
「はい、望月様にお会いするのは初めてでしたね。おいで」
「……」
私たちの座っているテーブルのところにやってきた男の子は……稲荷さん、そっくり。
黒髪の短髪に、細い目、日焼けしていない白い肌は、男の子にしておくのはもったいないくらい綺麗。
「この子は、大地といいます(さすがに、アースなんて、日本人っぽくないですしね)。こっちの中学校に通わせてるんですよ」
「へ!? ちゅ、中学生!?」
いやいやいや、どう見ても高校生にしか見えないんだけど。
「……大地です」
「ど、どうも、望月です」
「……」
こ、この無言の間をどうしたらいいのだろう、と思わず、稲荷さんに話をふる。
「い、稲荷さん、あのもしかして、ご自宅ってキャンプ場の中に」
「あるわけないじゃないですかぁ」
「あ、はい」
稲荷さんはこっそり耳元で呟いた。
「この子も、私と同じ力があるんですよ」
「!?」
ふと頭をよぎったのは、狐姿の稲荷さん。
もしかして、大地くんは。
「チビ狐!?」
「……チビじゃねーし」
確かに。
テーブルから見上げた不貞腐れた顔の大地くんは、チビには見えなかった。