作品タイトル不明
第455話 眠れるガンズと因果応報
テントの中で死んでるみたいに眠るガンズ。ゴーゴーと大きないびきをたてている。オババの解毒薬が効いたのか、蔦のように体中を這うような青黒い静脈のようなモノは消えてくれた。
タブレットの『鑑定』を思い出したのは、『収納』から梅シロップを取り出した時。慌てすぎて、見落とすのはいつものこと。そして、毎回、反省する……のに、繰り返しちゃう自分に、がっかりだ。
「でも、即死するような毒じゃなくてよかったわ」
ガンズの現状の通り、睡眠薬の成分が多かったようで、まだ眠りからは覚めていない。
一番の問題だったのは神経毒。あの静脈みたいに見えたのは神経に毒が回ってるのが可視化してたようだ。ネドリが解毒薬を飲ませずに放置していたら、スープを飲んで1時間もしないうちに心停止させたかもしれないシロモノらしい。
――怖っ。
あんまり効き目がなかったように見えてたドワーフの国の解毒薬だったけれど、実はそうでもなかった模様。十分、頑張った。作った人、偉い。
グガガガッ
突然のガンズの変ないびきに、どきっとする。
神経毒が完全に消えているのは『鑑定』済み。さすが、オババの解毒薬。
「ガンズさん、起きたら落ち込むよね。きっと」
ララさんに殺されそうになったのもそうだし、置いて行かれたこともショックに違いない。村の中では、随分と仲良さそうに見えたのに。
――でも、ここまでする?
私は湧き上がる怒りに、グッと両手を握りしめた。
* * * * *
ララは必死に森の中を走っていた。
まさか、あの場に他の獣人が来るとは思いもしなかったせいで、大きな荷物をそのままにして逃げ出したのだ。
魔の森の暗闇の中を逃げるのが得策ではないのはわかっていても、捕まるわけにはいかなかったし、腰には魔物除けの魔道具を下げているので、よっぽどの魔物でなければ近づくわけがない、とララは思っていた。
はぁ、はぁ、はぁっ
ギャギャギャッ
アオォォォン
鳥の鳴き声と、遠くから聞こえるウルフの遠吠え。
ララの耳に聞こえてくる音の感じで、まだ距離がある、大丈夫、と言い聞かせる。
――早く、帝国へ、お義父様の元へ帰らなくては。
ララはただひたすらに、森の中をかける。
……しかし、気付いていない。
自分の身体に起きている異変に。
『こんなの、けしちゃえばいいのにさー』
『まぁ、まぁ。けしたらけしたで、もんだいあるんじゃない?』
『あるかー?』
必死に走る周りを、余裕の表情で飛び回る精霊たち。
彼らの指先から、放たれるナニカが、ララの身体に滲みこんでいく。
『ねぇねぇ、こんなかんじー?』
『うーん、もっとおおくてもいいんじゃなーい?』
ララの白い肌に、徐々に広がる黒い蔦紋様。
『このままていこくまでもどれるかな』
『もどるまえに、まっくろになるにいっぴょう!』
『まっくろになるまえに、まものにくわれるにいっぴょう!』
『まっくろになって、まものにまちがわれて、ぼうけんしゃにころされるにいっぴょう!』
『ていこくのこっきょうで、へいしにころされるにいっぴょう!』
ただただ帝国へ戻ろうと前しか見ていないララは気付いていない。
自分の身体がすでに……漆黒に蠢く蔦で染まっていることを。
そして、彼女の声が奪われていることを。
村のことを伝えようとすると、どのような手段を講じようとも、身体中に死にたくなるくらいの激痛が走るということを。
『けしてはだめなんだから、これくらい、いいよねー?』
『ねー!』
キャッキャッと楽しそうに、ララの周りを飛び回る精霊の顔には、悪意は少しも浮かんでいない。