作品タイトル不明
<マリン>
ログハウスの2階、五月のベッドの脇の床で、体を丸めて眠るのは、聖獣バスティーラのマリン。
五月の家に来た時に比べると、少しだけ身体が大きくなったマリン。成猫よりも少し大きいくらい。五月がマリンを抱えると、思わず「重っ」と声が出る。
微かに聞こえる草刈り機の音に、ピクピクとマリンの耳が動く。
――暑いのに、よくやるわ。
むくりと体を起こして、小さな丸窓の方に目を向ける。
――村人たちも草刈りしてるのに、五月がすることないのに。
狼獣人の村人たちの多くは、山での狩猟やダンジョン内の攻略に勤しんでいるが、それほど力のない者たちは五月の山のメンテナンス(草刈りや伐採)の手伝いを自主的にしている。
そんな彼らの作業が自動的にKPに変換されていることを、五月は知らない。
マリンは基本、家の中でゴロゴロしている。完全に家猫状態だ。時々、親友のノワールが遊びに来た時に、外に出るくらい。それ以外は、滅多に家から出ることはない。
特に、ここ最近の暑さは、北の地で生まれたマリンにはかなり厳しい。
床板の冷たさも、すぐにぬるく感じるようになり、寝返りをうつ。
『マリン、遊びに行こうぜ~』
ノワールの暢気な声が、マリンの脳内に響いた。
すっかり身体が大きくなってしまったノワール。ログハウスの中には入れないので、上空からの声かけだ。
『……暑いから嫌』
『暑いから、水浴びしに行こうぜ』
『バカじゃないの』
『なんでだよー』
『水浴びだなんて、信じられない』
鼻でフンッと息を吐き、目を閉じるマリン。マリンは水浴びというか、身体が濡れるのが嫌いだ。五月が身体を洗おうとするたびに、その気配を察して猛ダッシュで逃げ出すのだ。おかげで、まだ一度も身体を水で洗われたことはない。
五月も途中で諦めて、猫用のボディタオル(ウエットティッシュのような物)で顔や耳などを拭くだけにとどまっている。それはマリンも嫌がらないからだ。
『じゃあ、魚獲り行こうぜ』
『魚? ユグドラシルの池のこと?』
ユグドラシルの根元にある池には、マイゴが放流されていて、いいサイズに育っていたりする。
『違う、違う、南の川にさ、デカい魚の群れがいたんだよ』
『デカいって、どれくらい』
むくりと体を起こしたマリンの目は、魚への興味でキラキラ光っている。
『上から見た感じじゃ、マリンよりずっと大きいかな』
『……いいわね』
『よし、先に行ってるぞ』
『ええ』
すっと立ち上がって、トトトッと階段を下りる。玄関ドアは閉まっているのだが、マリンの前足が軽く触れただけでドアが開く。
『まりん、おでかけ?』
『また、のわーるでしょ』
敷地のあちこちにいる精霊たちが集まってきた。
『ええ。魚を獲りに行くの。五月が帰ってきたら、そう伝えてくれる?』
『いいわよ』
『さかな、たのしみね』
精霊の言葉に、マリンはニヤリと笑った。
村の中央、ネドリの屋敷の前の広場。
「い、いやぁ、マリン様、随分といっぱい獲ってきましたね」
村人たちが地面をびったんびったん跳ねまわる数匹の魚たちに、腰が引けている。なにせ、大きさが、自分たちの身長と変わらないのだ。
それが15匹もいるのだ。
『フフフ、ノワールが運んでくれたのよ』
「これは、ラサロ(鮭)ですね……こいつは卵を持ってるな」
「凄い……こんなの俺たちじゃ釣りあげられねぇ」
「やっぱ、さすがだな」
『へへへ』
村人たちの言葉に、自慢げなノワール。マリンもまんざらでもない顔だ。
『ネドリ、これさばいてくれる?』
「ええ。いつものように、五月様へお渡しすればいいでしょうか」
『うん! 多めにお願いね! これ、絶対美味しいヤツだから! 皆も食べてみて!』
マリンの言葉に、村人たちも破顔した。
ネドリたちからラサロの切り身を大量にもらった五月。卵を持ったのがいたというのを聞いて、すぐさま貰いにいったのは言うまでもない(危うく捨てられるところだった)。