作品タイトル不明
第430話 ドワーフとママ軍団と葡萄
ドワーフたちは、せっせとシャインマスカットを収穫していく。
あの勢いで全部食べちゃうのではないかと思ったら、食べたのは最初の味見の1房だけ(!)で、大きな笊にどんどん山積みにしていく。
「……あれ、全部、ワインにするつもりかな」
「……しそうですね」
私がボケッとしながらガズゥとそんな話をしているうちに、果樹棚に下がってた白い袋は全てなくなってしまった。
「いやぁ、こんな立派な葡萄ができるとは思いませなんだ」
そう言って、ガハハハッと笑うヘンリックさん。そんな彼の横を、いそいそとドワーフたちが笊を抱えて去っていく。
「あれだけの量じゃぁ、小さい樽1、2個くらいしかできないかもしれませんが、まぁ、うちのに任せれば、いいワインに仕上げますんで」
ハンネスさんが自慢気にいう。
そんな彼の脇を通っていく女性のドワーフに目を向けると、笊を大事に抱えながら、ペコリと頭を下げて通り過ぎていった。
うちの、と言ったのは彼の妹さんのことだ。
元は葡萄農家に嫁いでいたのが、旦那さんが亡くなって、義弟に代替わりしたらしい。その途端に扱いが変わって、子供2人を連れて逃げ出したそうだ。
その農家で散々ワイン作りを手伝わされたらしい。
「出来上がったら、一番に味をみてくだせぇ」
「あ、うん」
気が付いたら、ドワーフたちは全員いなくなっていて、私たちの手には1房ずつシャインマスカットだけが残っていた。
翌日、洗濯物を干しているところに、ハノエさんたちママ軍団がニコニコ笑顔で現れた。
いや、笑顔なんだけど、なんか怖い。あ、目が笑ってないんだ!
「五月様! あの美味しい葡萄、もっと作りましょう!」
「は?」
どうもガズゥたちが持ち帰ったシャインマスカットが、思った以上に美味しかったそうで、ドワーフたちのところに分けてもらいに行ったのだとか。
「まったく、酒好きにも程度ってものがありますわ」
すでに、全部潰して樽に詰めちゃったらしい。
それなりにあったはずなのに、食べるよりも、飲む、らしい。
「あのように皮も食べられて、大きな粒の葡萄など、見たことはございません。もしかしたら、貴族や王族の方はあるのかもしれませんけど……」
ハノエさんたちが知っている葡萄は、赤紫色の小さい粒で、もう少し酸味が強いのだとか。
「今すぐは無理だとしても、来年あたり、もう少し量を増やしたら、と思うのです」
「増やしたら増やしたで、ドワーフたちが全部ワインにしちゃうんじゃ」
「そ、そこは、食用とワイン用とに分けるとか」
確かに、それくらいしないとダメかもしれない。
一度、植えているから『ヒロゲルクン』で苗木を植えることはできるはず。
「それじゃあ、葡萄畑に良さそうな土地と、果樹棚を用意してくれるなら、私の方で苗木を植えますよ」
「ありがとうございます!」
「世話でしたら、私たちがしますので!」
キャー! とか声をあげて喜んでる姿は、ママとは思えない。
私も、正直なところ、もう少し食べたかった。私はあちらで買って来ればいいけど、さすがにみんなにっていう量は無理だ。
でも、立ち枯れの拠点の土地では上手く育ったけど、新たな場所では大丈夫なんだろうか? と、少しだけ心配になった私なのであった。
* * * * *
『まったく、どわーふたちめ』
『さつきのために、そだてたのに』
『おいしいっていってくれてよかったわ』
『しかし、たった2ふさだぞ?』
『うまいわいんをつくらなかったら、いたずらしてやる』
そんな風に土の精霊たちが騒いでるのに気付いた者がいた。
実のなくなった葡萄の木に水やりに来ていた、ハンネスの妹の息子、ドレイクだ。彼には土の精霊の言葉が少しだけ聞き取れるのだ。
「ま、まずい、まずい。母ちゃんに言わなきゃ!」
ドレイクは顔を真っ青にしながら、大慌てて家に駆け戻ったのであった。