作品タイトル不明
第416話 梅ジュースとホワイトウルフ
冷えた梅ジュースを美味しそうにコクコクと飲む二人。
あっという間に飲み干してしまって、キャサリンたちが呆然となっている姿に、思わず、笑ってしまう。
「……美味しすぎて」
「なくなっちゃいました!」
頬を染めたキャサリンは、空になったコップを見つめ、サリーは大きく目を見開いて、コップを差し出してくる。
「お代わりいる?」
「よろしいのですか」
キラキラの期待の目には、応えたくなるわけで。
今度は目の前で二杯目を作って(お代わりを見越して氷も水も『収納』で保存済み)渡すと、今度はゆっくりと味わうように飲んでいくキャサリンたち。
「ほぉ……美味しすぎます……殿下にも飲ませて差し上げたいくらい」
「そういえば、殿下たちは」
「最初、殿下も来たがっていたのですが、ガズゥたちが声をかけたら、さっさとそちらに行ってしまわれました」
「男の子だしねぇ。ネドリたちとの訓練の方が楽しいんだろうね」
正直、キャサリンの婚約者で、王太子とはいえ、さすがに自分のテリトリーの中に入れるのは、ちょっと、と思ったので、ガズゥたちの誘いに乗ってくれたことにホッとする。
最初、護衛としてクロンメリン卿がついて来そうだったそうで、結局、立ち枯れの拠点に入る前の結界に阻まれて、追いかけられなかったらしい。
王太子チームは村限定だから、仕方がない。
「じゃあ、後で差し入れにでも持っていく?(たぶん、村でも作っている家はあるかもしれないけど、さすがに氷はないだろうし)」
「よろしいのですか?」
「いいよ~。それよりも、それ飲み終わったら、ユキたちの妹たちに会いに行くわよ」
「その子たちはどこに?」
「このくらいの時間だと、水浴び場だと思う。最近、暑くなってきたからねぇ」
そうは言っても、ここは山の中ということもあるのか、過ごしやすいほうだと思う。昼間の村の方が、けっこう暑い。村人の多くは、ユグドラシルの足元の池の周りで涼んでいることが多いのだ。
梅ジュースを飲み終えると、私たちはドッグランのある山裾へと降りていく。
彼女たちがいた時にはなかった施設だったことと、多くのホワイトウルフがそこにいることに、かなり驚いていた。
「水浴び場はこっち」
ドッグランを通り抜ける間も、盛大な水しぶきがあがる音が聞こえていて、楽しそうだなぁ、なんて暢気に思っていたけど。
「こらっ!」
水浴び場の中央で、バッシャンバッシャンと飛び跳ねている大柄なホワイトウルフが1頭。その周りを一回り小さいホワイトウルフたちが真似して飛び跳ねている。そのせいで、水浴び場の周りはびしょびしょだし、そもそも水が半分以下になっていた。
「……ムク!」
こんなバカ騒ぎをするのは、オスのムクしかいない。
『うひゃ!?』
「うひゃ、じゃないぞ!」
私に見つかって、逃げようとしたけれど、ユキにあっさり捕まった。首根っこを噛まれた状態でズルズルと引きずられてくる。
あー、あー、泥だらけだよ。
『ばびばってのの(何やってんのよ)』
『ご、ごめんなさい』
『ウノハナトシンジュハ、ドウシタ』
『し、知らない』
水遊びに夢中になって、姉妹の不在に気付かなかったらしい。
「あ、あの、この子が?」
私の後ろから顔を出すキャサリンとサリー。期待してた感じとは違うのに戸惑っているように見える。
さすがに、こんな汚いムクを触らせるわけにはいかない。
「ウノハナ~、シンジュ~」
3匹は大概一緒に行動しているので、そんなに離れたところにいるわけはない。
呼べばすぐに来るかな、と思ったのだが。
『……五月様、ここから動かないでください』
急にユキの言葉遣いが変わった。
『スノー、行くわよ。残りのものは五月様たちを守れ』
ちょっと、ユキがカッコいいんだけど。
ワオォォォン
ユキの遠吠えが、山全体へと広がっていく。