作品タイトル不明
<司祭ピエランジェロ>
王都から戻ったピエランジェロの元に、しばらくしてから教会本部からの手紙が届いた。
新たに出来た村に、教会の建設と、その管理をするようにとのお達しである。
そして、ピエランジェロの後任には、天罰が下ったゲレロ元司教……現ゲレロ司祭が納まることになった。
「教会本部は何を考えているのでしょうか」
「司祭様、お一人で行けというのですか」
「仕方ありません。本部からの指示ですから」
けして多くはない部下たちからの、怒りの言葉を宥めつつ、そう言いながらも、ピエランジェロは内心、ワクワクしていた。
勝手に教会を離れるわけにもいかず、かと言って、村のことが気になって仕方がなかった。そんな彼に、教会本部からの指示という形をとった、神の恩恵のようなチャンスがやってきたのだ。
「新しい司祭が来たら、すぐに村に向かえるようにしなくてはいけませんね」
「……ピエランジェロ様」
部下たちの、悔しそうな表情とは反対に、笑みを浮かべているピエランジェロであった。
見事に禿げあがったゲレロ司祭が、ケイドンの街にやってきたのは、教会からの手紙が届いて3日後のこと。
「さぁ、さっさと、あの怪しい村へ行くがいい」
仕事の引継ぎの準備もまだな上に、そもそも、村に連絡もしていないのに、ゲレロ司祭は、ピエランジェロを追い出しにかかった。
本来なら、教会の箱馬車で向かうはずが、これはケイドンの教会の物であるとして、使用が許可されず、その代わりに、近隣の農家が、司祭様には世話になったからと、御者とともに無償で貸し出してくれた荷馬車で行くこととなる。
「ちゃんと、村に入るのを確認したら、戻ってきなさい」
「はいっ! ゲレロ司祭様っ!」
王都から一緒についてきたボムスは、恭しく頭を下げる。
ボムスは王都の裕福な商家の三男で、ゲレロ司祭とは遠い親戚にあたっていた。
元々、王都でも可愛がられていた上に、例え、降格されて辺境の地に飛ばされても、あの方であれば、再び、王都に返り咲くに違いないから、と父親に言われたこともあり、進んでゲレロ司祭についてきたのだ。
ピエランジェロが持って出られた荷物は、けして多くはなかった。
個人の荷物の他には、新たな教会に設置するための仮のご神体と、教会内で一般信者へ貸し出しするため用の聖書1冊のみ。
まるで、罪人のような追い出し方に、残った者たちの顔は暗い。
「ピエランジェロ司祭、行きますよ」
不遜な声で言うボムスをよそに、ピエランジェロは薄っすら笑みを浮かべながら荷馬車へ向かう。
「院長様っ!」
「どこへ行っちゃうのっ!」
教会の裏手にある、ピエランジェロが院長を兼ねていた孤児院の子供たちが、駆け寄ってきた。
「申し訳ございませんっ!」
孤児院の副院長であるシスターが、慌てて追いかけてくる。
「どこに行くのっ!」
「行っちゃヤダ!」
「我儘を言って、院長様を困らせてはなりません」
「マリア、いいのですよ」
「院長様……」
ピエランジェロは、子供たちの視線に合わせるようにしゃがみ込み、優しく声をかけていく。
「私は、新たな教会を建てるために、ある村に向かわねばならなくなりました」
「そんなの、院長様じゃなくても」
一番年長の男の子が、不満げに言う。
「いいえ、いいえ。そこは、神の力に溢れる場所なのです。そんな素敵な場所に、他の方を行かせられると思いますか?」
悪戯っぽい顔で、そう話すと、子供たちの顔は、ワクワクしたものに変わる。
「そうね! 院長様じゃなきゃ、駄目だわ」
「いつか、ぼくもいってもいい?」
「そうですね。神様がお許し下さるなら」
「だったら、ぼく、いっしょうけんめい、おいのりするっ!」
「わたしもっ!」
「おれだって!」
子供たちの賑やかな声に、ホッとして、ピエランジェロは、隣にいた副院長にこっそりと声をかける。
「……何かあったら、村まで連絡を。場所はゲイリー(農夫)がわかりますから」
「……はいっ」
薄っすらと涙目になっている副院長は、両手をギュッと握りしめながら頷いた。
荷馬車に乗って2日目の午後、目的の村に到着した。
その間、ボムスはブツブツと文句ばかりを垂れていたけれど、ピエランジェロは、御者を務めてくれた農夫と共に、神の村について話し続けた。
「……ここですかい」
「ああ、そぅだよ」
大きな石塀に囲まれた村に、驚いているのは農夫だけではなく、ボムスも同様だった。
――さぁ、ここで私の新たな人生が始まるのです。
ピエランジェロは、少年のように目をキラキラとさせながら、村の入口へと向かうのであった。