作品タイトル不明
第360話 桜の塩漬け
「五月様! 花、採ってきました!」
ガズゥたちが、大きなジッパー付きのビニール袋いっぱいに、桜の花を詰め込んできた。
私が気まぐれに作った桜の塩漬けで、ガズゥたちが桜茶を飲んだのがキッカケ。
調べたところによると、八重桜とかの方がいいらしいのだけれど(色が濃くて香りが強いらしい)、ここにそんな桜はないけど、ちゃんと桜の塩漬けにはなっている。
ホッとするような風味のあるお茶ではあるものの、そこまで? と思うくらいにガズゥたちは気に入った模様。ハノエさんたちにも飲ませたい、と言いだした。
残念ながら、私が個人的に作った程度なので量がない(そもそも私が採れる高さの桜の花には限度ってものがある!)。
それがわかった途端、自分たちでも作りたい、と言いだしたのだ。
「おー、まだ、そんなにあったの?」
「もう、ほとんどない」
「ないねー」
エイデンの山裾の桜並木の方は、すでに散ってしまっていて、ガズゥたちが採ってきたのは、うちの山の中の方の桜。
彼らのことだ。軽々と木に登って採ってきたんだろうなぁ(遠い目)。
「これで、どれくらい出来ますかね?」
「どうだろうね。塩漬けにしたら、小さくなるだろうし」
「来年は、もっと早くに採りましょう!」
「採りすぎたら、さくらんぼが生らないかもよ?」
「あっ!」
さすがに咲いた花全てに実がなるわけではないけれど、それでも数は減る。
「まぁ、それは来年考えよう(桜並木の距離が伸びてる可能性もあるしね)」
そうなのだ。
エイデンの山裾の途中までしか出来ていない桜並木。中途半端な状態なのは、やっぱり嫌だなぁ、と。
さくらんぼの種はまだ残ってる。エイデンには、しっかり黒ポットの回収をお願いしておいたので、また種を植えて増やすつもりではいたのだ。
「じゃあ、桜の花を洗おうか」
ガズゥたちにザルを持たせて、ログハウスの敷地の中の人工池で、桜の汚れをササッと水洗い。水の精霊たちが興味津々で覗き込んでる姿は、可愛らしい。
ログハウスの前の小さな東屋で、桜の花の水気をとるために、ペーパータオルを広げて、一つ一つ置いていく。
……量、多いよ。
『さつき、これはなにしてるの?』
土の精霊の一人が問いかけてくる。
「これは、花の水気をとってるのよ」
『かわかせばいいのか?』
水の精霊の一人がヤル気を見せる。
あ、いや、これは薪を作るみたいに乾燥させるのとは違うはず!
「軽く水気を取りたいだけなのだけど……できるかな」
『どれくらいだ?……なんだ、これっぽっちか』
見本を見せたら、ガッカリされた。
「お願いできる?」
一つ一つ並べていたガズゥたちの目が期待に膨らんでいる。
彼らに精霊の姿は見えていないけれど、私の言葉で精霊たちがやろうとしていることが予想できたのだろう。
『このくらいだろ?』
私のザルの桜の花の水気がとんだ。指先で確認すると、しっとりはしてても濡れてる感じではない。
「さすが! いい感じに乾いてるわ」
私の誉め言葉に、へへんっ、と胸をはる水の精霊。
だったら、ぼくも、わたしも、と他の水の精霊たちがガズゥたちの持っているザルの桜の花も乾かしてくれた。
「うわ~」
「すごい」
「ありがとうございます、精霊様」
全然見当違いの方を向いて、頭を下げるガズゥ。
せっかくなので、私の掌に水の精霊たちを集めて、もう一度、お礼を言わせてあげた。
――君たち、可愛すぎるだろっ。
水気をとった桜の花を、中くらいのサイズのジッパー付きのビニール袋に分ける。結局、9つできた。
その中に塩を入れて、桜にまぶす。あんまりゴリゴリやると花が傷んでしまうので、優しく、優しく。
「これに重しをのせて1日、その後、お酢で1日漬けて、水気をとって天日干ししたら完成、かな」
「へぇ……すぐには飲めないんですね」
「まぁねぇ」
ちょっと残念そうなガズゥたちだったけれど、こればかりは仕方がない。
天日干しをする時だけ手伝ってもらうことにして、他の作業は私の方でやってあげることにした。
そして、彼らには桜の花を集めてきてくれたお礼にと、作っておいた桜の塩漬けと枝豆の入ったおにぎりを進呈した。
思ったよりも美味しく出来てて、よかった、よかった(ほっ)。