作品タイトル不明
第344話 ジェアーノ王国のこと
「五月様っ!」
果樹用棚のところでドワーフたちと話しているところに、ガズゥたち、ちびっ子が走ってきた。一番後ろには、笑顔のラインハルトくんの姿も見える。
すっかり村の子みたいになっているけれど、ジェアーノ王国から疎開してきた、彼はれっきとしたヘドマン辺境伯という貴族の子だ。
そのジェアーノ王国は、未だに帝国との緊張状態が続いているらしい。
一時期、エイデンたちの介入で、なんとか盛り返していたらしいけれど、やはり、帝国の方が優勢らしい。
なぜ帝国がジェアーノ王国に戦争を仕掛けているのか、というと、どうもラインハルトくんの実家、ヘドマン辺境伯の領地にある希少な鉱石を産出する鉱山が狙いらしい。
帝国自体、かなり大きな国で、その土地の中には複数のダンジョンもあれば、鉱山だっていくらもあるそうだ。その希少な鉱石も、帝国内の鉱山の一つで産出してるらしい。
それなのにもっと、と欲している様が、帝国の人間の貪欲さが目に見える。
なぜそんな情報を私が知っているのかというと、ネドリとエイデンが教えてくれたから。
彼らはここ最近、一緒に別の国のダンジョンなどに遠出をすることが増えた。
村長のはずのネドリだけれど、村自体が結界やホワイトウルフたちに守られていることと、村のことはジジババ軍団と共にハノエさんが取り仕切っているので、頻繁に出かけられるようになったのだ。
そのお陰もあってか、遠出をした時に色んな情報を集めてきて、たまにある宴会の時などに皆に話をしてくれたりする。そんな情報の中に、ラインハルトくんの母国、ジェアーノ王国のことも含まれていたわけだ。
「こレは、ナんですカ?」
少しジェアーノ王国訛りのある言葉は、ラインハルトくん。
共に疎開してきた大人組よりも早く、獣人たちの言葉を話し始めたのは、さすが頭の柔らかいお子様だけのことはある。
「これはね、果樹用の棚よ。この葡萄が大きく育つために用意してもらったの」
「葡萄!」
「ぶどうー」
「いつたべられる?」
ガズゥたちお子様のキラキラした目に、胸を撃たれる。その中には、当然、ラインハルトくんもいる。
『はやくたべたいか?』
『さつきさま、そだてる?』
『すぐできるぞ?』
ドワーフたちの騒ぎには反応しなかった土の精霊たちが、ガズゥたちの言葉にヤル気になっている。お陰で、若干暗くなった気持ちが浮上する。
「いやいや、育てないで。普通でいいから」
『だって、これ、おいしいんだろう?』
「おいしいけど!」
本音は食べたいけど!
「おいしいのっ!?」
精霊たちとの会話に、マルが反応する(精霊たちの言葉は聞こえていないはず)。
「あ、うん、美味しい実が生るはずよ~」
「よし、テオ、マル、ハルト、水やりは俺たちの仕事だな!」
「おー!」
「おー!」
「オー!」
『おー!』
ガズゥの言葉に、ちびっ子たちだけではなく、精霊たちまで盛り上がっている。
――平和だなぁ。
ラインハルトくんの楽しそうな様子を見て、一方のジェアーノ王国のことを考えずにはいられない。
――早く、国が落ち着けば、両親の元に帰してあげられるのに。
――私でも何か手伝えることがあればいいんだけど。
不意に、優しい暖かい風が吹いてきた。
目を空に向けようとして、視界に入ったのは大きく枝を広げているユグドラシル。
その上空に、大きな羽を広げた、黒いドラゴンの姿が目に入った。
「エイデンが帰ってきたみたいだね」
ちょっと真面目に、エイデンに色々相談してみよう。
私はガズゥたちの背中を押しながら、エイデンが降りてきそうな場所……村の入口の方へと歩きだした。