軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第318話 エイデンの嫌がらせ

今日は、朝からログハウス横の畑で、ほうれん草を収穫中だ。なかなか肉厚な葉の様子に、ニヤニヤする。今日はほうれん草とベーコンの炒め物にでもしようか。

「五月!」

上を見上げると、真っ青な空の中に、人の姿で飛んでいるエイデンがいる。

その状況にも慣れてしまったようで、特別びっくりすることもなくなった。

私が手を振って返事をすると、軽やかに着地したエイデンが、にこやかに私の方へと歩いてきた。

ムカつくくらいのイケメン具合。

ここはランウェイじゃないぞ。

「この前言ってたジェアーノ王国、見てきたぞ」

ラインハルトくんたちが獣人の村に来た次の日に、エイデンに彼らの話をしたのだ。

古龍であるエイデンに、彼とは関係のない、他人の争いごとに関わらせるのはどうかな、とは思ったけれど、詳しい状況がわからないのでは、これから彼らをどうしたらいいのか、判断ができないし、事が事だけに、後手に回る方がマズイ気がしたのだ。

なにせ、肝心のジェアーノ王国というのが、間に帝国があることもあって、めちゃくちゃ遠いらしいのだ。ネドリに言わせれば、比較的足の速いと言われている狼獣人の足でも2か月くらいかかるらしい。相当な距離だと思う。

空を飛べるエイデンだったら、すぐに行って帰ってこれるんじゃないかな、と単純に思ったら、見事に実践してくれたようだ。

ほうれん草の収穫を途中で終えて、私はログハウス前の東屋にエイデンを誘う。

薪オーブンでお湯を沸かしながら、お気に入りのハーブ入りクッキーを出す。これはエイデンも気に入っているのか、クッキーを見ただけで目が輝いている。

「で、どうだったの?」

1つ目のクッキーを口に放り込み、満足そうな顔になったエイデンに、すかさず質問する。

「うむ……まだ、なんとかもっているようではあった」

エイデンいわく、ドグマニス帝国との国境にあった大きな石壁が崩壊していて、軍隊が進軍した跡があり、どうも一番近くの城に駐留している状態らしい。

ラインハルトくんの父親やお兄さんがどうなったのかまではわからないようだけれど、住民とともに抵抗している勢力がいるらしい。

「獣人が関わってるっていうのは?」

「ああ、住人たちの会話からも、そんな話が出ていたよ」

エイデンは軽く調べるために、抵抗勢力の中に忍び込んで話を聞いてきたらしい。

その美貌で、よく騒ぎにならなかったわね、と思ったら、『認識阻害』とかいうので、わからないように出来るんだとか。

……魔法、すげぇ。

「それって、獣王国も宣戦布告してるってことになるのかな」

「いや、軍隊というほどの数ではなかったらしいから、傭兵でも雇ったんじゃないか、というのが、おおよそのところらしいぞ」

それを聞いて、少しだけホッとする。

獣人が襲ったことには変わりはないけれど、ネドリたちの国が戦争をしかけた、と思うのと、傭兵が襲った、というのでは、若干、気持ちの持ちようが違ってくる気がするのだ。

「まったく、帝国の連中は胸糞悪いのが多いから、ちょいとばかり嫌がらせをしといた」

ニヒヒヒ、と、イケメンらしからぬ笑い方をするエイデン。

「……何、やらかしたのよ」

「うん? まぁ、ジェアーノ王国の連中の手助けをしてやったってところかな」

……えぇぇぇ。

もう、なんか、考えるの、放棄しようかしら。

湧いたお湯で紅茶をいれると、私は遠い目で青い空に目を向けるのであった。

* * * * *

「ど、どうなってるんだ!」

ジェアーノ王国との国境と接する領の軍の司令官が、大声でがなり立てる。

ドグマニス帝国とジェアーノ王国との国境にあった石壁が破壊されたのは、つい1週間ほど前のこと。このまま、到着の遅れていたオデブノ伯爵の私兵が続いて進軍する予定だったのに、彼らが着く前に、石壁がいきなりもとに戻ってしまっていたのだ。

それも、前よりも強固な石壁のようで、魔法での攻撃が弾き返されてしまう。

「くそっ!」

司令官が怒りに任せて、石壁を思い切り蹴った……つもりだった。

「ぐあっ!?」

反対に弾き飛ばされてしまった。

* * * * *

ドグマニス帝国の軍に占拠された、ヘドマン辺境伯の城。

「ど、どうなってるんだ?」

偵察に入り込んだジェアーノ王国の男がぽつりと呟いた。

なぜなら、ドグマニス帝国の兵士たちが、虚ろな目で動きもせず、立ったままの状態でいるのだ。それが、一人二人ではない。城内にいる連中がすべてである。

「は、早く、辺境伯様にお伝えせねば!」

男は慌てて城を飛び出して行ったのだった。