作品タイトル不明
第272話 土地の契約と、洗濯機
ハノエさんたちとのおしゃべりを終えて、ログハウスへと戻る。サバサバした彼女たちとの会話は、楽しいので好きだ。
ガズゥたちは、母親たちの手伝いをしてから、うちの方に来るという。せっかくなので、果樹園の栗やみかんをとってもらおう。
スーパーカブを玄関先に止めて、家の中に戻ろうとした時、トンネル側の門の方から、車のエンジン音が近づいてくるのが聞こえた。
プップー
クラクションの音に、稲荷さんだろう、と、すぐに門の方へと向かう。他の人が車で来ることはないしね。
「おはようございます~」
「わざわざ、すみません!」
今日の稲荷さんは、小型のジープみたいなのに乗ってきていた。
「カッコいいですねぇ」
「いいでしょ? ちょっとネットで割安になってたのを見つけちゃって」
それで即買いできる稲荷さんって。
まぁ、キャンプ場やってるくらいだし?
そもそも神様だから、お金もたくさんある……のだろう。
「契約書、持ってきましたよ」
「ありがとうございます! あ、今、お茶出しますね」
私は急いでミニテーブルと、追加で買い足した折り畳み椅子を2つ出す。
最初に買ったのと同じデザインのものがないか探したのだけれど、見つけられずに、新しく買ってしまった。後悔はしていない。
お茶は『収納』に入れっぱなしの水筒に入れてある。お菓子はいつも稲荷さんから貰ってるお煎餅。『収納』に入れとくと湿気らないから便利だ。
稲荷さんがお茶を飲んでいる間に、向かい側に座りながら契約書に目を通す。
長々とした文面の中に、空欄がある。もしかして。
「敷地の範囲が決まってないから、敷地面積と金額が決まってない?」
「はい、その通り」
「えーと、どれくらいの範囲なら可能なんです?」
「……どれくらいでも?」
ずずっとお茶をすすってから、ニッコリと笑う稲荷さん。細い目が弓なりになってますがな。
「いやいやいや、さすがにどれくらいでもって」
「望月様がお支払いいただける金額の範囲でも構いませんし、ここからここまで、と範囲をしてしていただいても構いません」
「え、足りない場合は」
「それは分割でも」
あー、うん。
なんか、イグノス様が、好きにすれば? とか、言ってそう(遠い目)。
「じゃあ、例えばですね」
私は気を取り直すと、タブレットを持ち出し、『ヒロゲルクン』の地図を開いた。
稲荷さんとの話し合いは、ガズゥたちが顔を出す前に終えることができた。
結論から言えば、すでに私の手が入っている部分以外、山3つ分を買うことになった。
うちの山の隣(エイデンの山)と、その北側の山2つだ。ちなみに、一番北側にあたる山は、ビヨルンテ獣王国と接しているらしい。その山周辺の森は、魔の森と言われる場所らしく、かなり強い魔物がいて、人も住めない土地なのだとか。そういう土地と隣接しているような場所だったら、誰からも文句を言われることもないだろう。
一応、分割ではなく、一括払いで済んだ。
金額? ……あははは。
一応、少しだけ残高が残るくらいだとは言っておこう。
「あ、稲荷様! こんにちは!」
ガズゥたちが元気に走ってきた。尻尾がブンブン振りまくってるよ。
「やぁ、やぁ、久しぶりだね。おや、少し、背が伸びたかい?」
楽し気に話している姿を見て、私はふと、ハノエさんたちの洗濯の様子を思い出した。
「そうだ」
「はい? どうかしましたか?」
「あのぉ、魔道具の洗濯機って、おいくらぐらいするんですかね?」
これから冬になって、冷たい水で洗濯とか、洗濯板があっても嫌だ。私なら。
稲荷さんは、ふーむ、と顔をしかめながら、考え込む。
「望月様がお使いになるんですか?」
「いえ、うちには電気で動くのがあります。ただ、ガズゥたちのお母さんたちが手で洗濯しているのを見て、なんとかできないかなぁ、と思いまして」
「ああ、なるほど……しかし、こっちでは魔道具ってだけで高級ですからねぇ」
まぁ、魔道コンロ(1口ガスコンロサイズ)が4万Gもするんだもの、洗濯機となったら、もっとしそうだ。
「そうですねぇ。中古でよければ、安く売りますよ」
「ん? 稲荷さんが?」
「ええ、うちの奥さんが、新しいのが欲しいって言ってましてね」
……稲荷さんの家のというだけで、中古でも高そうって思っちゃうのは、私だけだろうか。