作品タイトル不明
第268話 稲荷と土地や行商人の話をする
まずはガズゥ用にと、濃い緑の毛糸を手にする。所々に薄めの緑があるので、編んでいくとマーブル模様になるはず。最初はマフラーを編もうと思ったけれど、山の中を走り回っている彼らだと、どこかに引っ掛けてしまう可能性がある。
「ネックウォーマーとかの方がいいのかな」
黙々と編みながら、先日、稲荷さんと話をしたのを思い返す。
「なるほど。土地を買う気になりましたか」
場所はいつものキャンプ場の事務所。その日も買い出しの帰りに、郵便物のチェックのついでに稲荷さんのところに寄ったのだ。
おやつは、温泉饅頭。なんでも、スタッフの子が近場の温泉に行ってきたそうで、そのお土産だそうだ。ちょっとだけ、温泉いいなぁ、と思った。そのうち、私も行ってみてもいいかもしれない。
お茶をいただきながら、無事に獣人たちが越してきたことと、ログハウス作りがなかなか大変だったこと、色々、文句を言われないように土地を買っておいた方がいいだろうかと、いう話をする。
私が買う気になったせいか、稲荷さんはご機嫌な様子。
「そうですねぇ……すでに望月様がかなり手を入れてらっしゃるようですので、それほど金額はかからないと思いますよ」
「え?」
「ここでは確認できませんけど、あちらに戻られてから、地図の確認してみてください」
「は、はぁ」
「それ以上の範囲も、ということであれば、その範囲の確認のためにも、近いうちに、あちらにお邪魔させていただきますね」
「お、お願いします」
嬉しそうに言う稲荷さんに、その時は、どれくらいの範囲がすでに対象になっているのか、すんごく気になった。
「それと、行商の方が来てくださって」
「ああ、やっと伺いましたか」
一応、最初、変装? 偽装? してて、エイデンに怒られたこととか、まさか、エルフが行商してるとは思わなかったとか、話しているうちに、なぜか稲荷さんの顔がどんどん強張っていっている。
「そういえば、『世界樹の葉』を集めておいてくれれば買い取って下さると……稲荷さん?」
「あ、いえ、そうですか。せいぜい、高く買い取るよう伝えるように、妻に言っておきましょう(まったく。誰を手配したのか、確認しておけばよかったですね。よりにもよって、レディウムスとは。めんどくさいヤツが出てきたものです)」
「あ、ありがとうございます」
彼らが去ってから1か月程。まだ来るとは思えないけど。そういえば、まだ『世界樹の葉』を集めていない。ガズゥたちにでも頼んでみるのもいいかもしれない。
それよりも先に、ドッグラン脇に水浴びできる場所を作る職人さんがいつ来てくれるのか、そっちのほうも気になる。あんまり寒くならないうちだといいんだけど。
その他諸々、あちらでの生活の話をしていると、稲荷さんが何か思い出したようで、ポンッと手を叩いた。
「そうだ。お手紙がいくつか届いてましたよ」
そう言って渡されたのは、カード会社や生命保険会社からのDMや、引っ越し通知(同期)と、結婚しましたハガキ(同期)。同期からのハガキは、春先にあった結婚式の二次会で会った二人だ。
こういうのを受け取ると、あんなにガッツリ、異世界で生活しているのに、自分は日本でもちゃんと存在してるんだなぁ、って思った。