作品タイトル不明
<エイデンとビャクヤ>
軽トラの荷台に横になっていたエイデンは、星のきらめく夜空を見上げていた。
五月がこのままここで泊まると言い出したので、自分の城に戻るわけにもいかず、軽トラの護衛も兼ねて、荷台で寝ると言ったら、『収納』から折り畳みのマットレスと毛布を出したのだ。
薄くて軽いマットレスにあまり期待はしていなかったエイデンだったが、実際に寝てみて、意外に寝心地がいいことに驚く。これが五月の住んでいた世界の物なのか、と感心する。
エイデンにしてみれば、人の姿とはいえ、荷台の上であろうとも大したことはなかったりする。しかし、五月がわざわざ用意してくれたものだけに、嬉しい気持ちでついついにやけてしまう。
まだ結界の中に入ることはできないが、最近、接する距離が少しだけ近くなった気がする。
食事にしてもそうだ。この世界の古龍は食事をしなくても生きていける。五月が食べると思うからこそ、魔物を狩ってくるのであり、五月が料理したものだから食べるのだ。自身のアイテムボックスにしまいこんだ、五月のにぎったおにぎりを思い出して、笑みが浮かんでくる。
「うん? 何か来る」
人の耳には聞こえない、遠くからの馬の蹄の音とホワイトウルフたちの足音に、エイデンは身体を起こして、音のする方へと目を向ける。
「……ビャクヤか」
仄かな灯りが徐々に近づいてくるのが見える。
『エイデン様!』
ビャクヤが一匹だけ先に、軽トラのそばまで走ってきた。他のホワイトウルフも後を追いかけてくる。すっかり、エイデンの圧にも慣れた彼らは、盛大に尻尾を振っている。
「うむ、ビャクヤか。それと、人族の」
「ド、ドゴルですっ」
ちょうど軽トラの後ろについたところで、慌てて名乗るドゴル。
「お前だけのようだが、大人たちはどうした」
「は、はいっ、他の馬車で戻りました。お、俺はまだ残っている人がいるって聞いて」
「ふむ。そうか。さっさと村の中に入れ」
「あの、エイデン様は」
「俺はここでこいつの番だ」
トントンと軽トラの車体を叩く。
ドゴルはとりあえず納得したのか、そのまま村の仲へと入っていったが、ビャクヤたちホワイトウルフは、軽トラの周りで寛ぎだした。
「お前らはいいのか?」
『我らは、エイデン様のお傍におります』
「中に五月がいるぞ?」
『はい。匂いでわかりますが、あそこにはネドリがおりますし(我らがいることはわかっているはず)……』
「フフフ、精霊たちが煩いか」
エイデンの言葉に、ビャクヤは視線を外す。
元々、この村周辺の精霊の数は多くはなかったのが、五月の梅の木のおかげで、少しだけ増えていた。しかし、今回の魔物の襲撃と、エイデンによって半径1キロにわたり燃やし尽くされた結果、精霊のほとんどが逃げ出してしまっていたのだ。
それなのに、今では結界の中は、見える者が見たら、とんでもなく増えているのがわかるだろう。恐らく、五月に釣られて、あちこちにいた精霊たちが集まってきたと思われる。
「まぁいい。しかし、万が一の時は、中のことは頼むぞ」
『はい』
ビャクヤは頭を下げ、そのまま軽トラのそばでうずくまった。
焼け焦げた臭いの漂う獣人の村で、静かに夜が更けていく。