軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

<ネドリ>

村に戻ったネドリは、すぐさま、移住の話を村人たちにした。

最初村人たちは、長年住んできた村から離れるのに難色を示していた。しかし、その気持ちを変えさせたのは、テオとマルだった。

「さつきさまのところは、おいしいものがいっぱいあったんだ!」

「ほわいとうるふたちがいっぱいいてね」

「えいでんさま、すごいんだよ? ばーっととんで、どーんとやっつけるんだ」

「ガズゥ兄にあいたいなぁ」

「あいたいなぁ」

テオとマルの、偽りない気持ちと、期待と希望に満ち溢れた表情に、大人たちの心は揺れる。

そして、ネドリだけではなく、現地に行き、五月と面識のある部下のドンドンも、古龍であるエイデンに守られた土地と、浄化され精霊の多くいる土地での経験を話すことも忘れない。

若者の独身者の多くは移住に前向きになり、一部では、すでに荷物を整理し始めたが、年配の者の多くはまだ、決めかねていた。

ネドリが戻ってきて3日後。

「ネドリ様、怪しい集団が南東から来ております」

「おそらく、奴隷商人たちじゃないかと」

狩りに出ていたドンドンたちから報告があがる。

それも堂々と、多くの護衛とともに奴隷を運ぶ専用の大きな馬車で、この村の方へと向かっているのだという。距離にして、馬車で半日ほど。足の早い獣人にとっては、2時間ほどの距離。

「……やはり帝国の奴らが来たか」

「王都の道から、あのような集団で来るとは。やはり、奴ら、王家とも繋がりがあるに違いございませんっ!」

「よせ。確定の話ではあるまい」

「しかし」

「それよりも、五月様の元へと向かうのを急がねばなるまい」

最初は、若者たちを先行させて、五月の土地で受け入れ体勢を整えさせるつもりだった。

その後を、家族連れ、先の魔物との戦闘で身体が不自由になった者、老人たちを馬車に乗せて、ゆっくりと移動すればいい。

しかし、今の状況では、すぐに移動など無理な話だ。

「ネ、ネドリ様っ!」

今度は別の者が、青ざめた顔で家に駆け込んできた。

「なんだ、いったい」

「ま、魔物の群れが」

「群れ?」

「ひ、人型を主体にした魔物の群れが、こっちに向かってきてるんですっ!」

「なんだって」

村の中で一番高い建物である村長の屋敷。その屋根の上に登ったネドリの目に映ったのは、深い森の中にも拘わらず、土埃が舞い上がり、その中にバカでかい人影がいくつか蠢いているものだった。

「……まさか、トロールか?」

森の奥深くに住み、性格も穏やかで、滅多なことでは人里に来ることなどないトロール。それが、大きなこん棒(おそらく大木そのもの)を振り回しながら村の方へと向かっている。

「なんだって、こんなタイミングに」

ギリリと歯を食いしばるネドリ。屋根から飛び降り、村人たちへと声をあげる。

「徒歩になるが、今すぐに出られる者はいるか!」

ネドリの言葉にすぐに反応したのは、荷物をまとめていた若者たち。先の魔物討伐にも参加して無事に生き残った若者たちだった。

「ドンドン、彼らを連れて五月様の元へ」

「しかし、他の者たちは」

「すぐには無理だ。今から準備をしても、馬車での移動では、帝国の連中に気付かれる」

「であれば、私も残って戦います」

「馬鹿者ッ、今は、できるだけ多くの者を生かすのが先決だ」

ネドリは、テオとマルの家族の方へと目を向ける。

しかし、彼らは絶対に離れないと言わんばかりに、両親にしっかとしがみついている。

大きくため息をついて、再び、村人へと声をかける。

「まずは、すぐに動ける者はドンドンとともに、五月様の元へ向かえ。次に動けそうな者は……よし、ガイシャ(テオの父)のところと、ヘデン(マルの父)のところは行けるか。他は」

なんとか移動できそうな10家族を確認すると、次に残る者たちへと目を向ける。

その多くはケガ人や老人を抱えた家族たちだ。

「おそらく、五月様から賜ったウメの木の結界が、我らをお守りくださるかもしれないが、それは絶対ではない。しかし、我らは誇り高き狼獣人。タダで奴らにやられるつもりはない」

ネドリの言葉に、村人たちの瞳がギラギラと力強く輝きだす。

それは、エイデンが獣人の村に向かう1週間ほど前のことであった。