作品タイトル不明
第190話 宿泊とサリーの飴玉
貴族のゴタゴタとか、聞かなくても面倒なことなんだろうな、というのは想像できる。しかし、そのためにキャサリンたちが狙われるとか、理不尽だ。でも、それが、この世界というものなのだろうか。
――絶対、そういうところに関わるのやめよう。
それにしても、キャサリンたちは再び、そういう厄介な場所に戻ることになる。私自身が関わるつもりはないものの、何かできることはないだろうか。
「とにかく、キャサリンたちが無事でよかった。早く、屋敷に戻ろう。エリーゼもお前のことを待っている」
「……お母様」
泣き止んでいたキャサリンの目に、再び涙が浮かんでくる。
確かに、早く戻らせてあげたいところではあるが、もう日が暮れだしている。
「あの、もしよろしければ、一晩、ここでお休みになってから戻られたらいかがですか?」
ずっと馬車で移動してきたのだろうから、まともに休めていないだろう。ここであれば、ホワイトウルフたちがいるし、滅多なことがないかぎり、魔物も襲ってこないだろう。
「ありがたい話ではあるが……」
「公爵様、護衛の方々もお疲れのようですし」
完全に忘れてたのだろう。私の言葉で、公爵はハッとした顔になった。
「すまん、デイビー、かなり無理をさせていたのだったな」
「いえ、旦那様、我らであれば大丈夫です」
サリーの叔父さんは無表情に答えているけど、顔色、すごいよ。護衛の人達だって、埃塗れのはずだ。
結局、彼らはここで1泊して戻ることにした。であれば、ちゃんと休んで頂かねば、と思ったら、あの馬車、なんとキャンピングカーみたいになってるそうな。さすがにお風呂はないようで、今まではサリーの叔父さんが全員分、クリーンという魔法をかけていたそうだ。であれば、お風呂に入ってもらうのがいいだろう。
「エイデン、またお肉、頼んでもいいかしら」
「おお! かまわないぞ! ガズゥ、テオ、マル、行くぞ!」
私のお願いが嬉しいのか、超ご機嫌な笑顔を浮かべ立ち上がるエイデン。ずっと大人しく、東屋の外で隠れていた獣人の子供らに声をかけると、すぐに向かいの山の方に駆け出して行く。
「す、すまない」
「いえいえ、少し用意いたしますので、よろしければ、お子様たちとお話でもどうぞ」
「五月様」
「キャサリン様、せっかくです。ここでの体験したことを、お父様にお話をしてみてはどうです?」
「ええ! わかったわ!」
嬉しそうな女の子たちの顔を見て、私も笑顔になる。
……さてと、お肉はエイデンたちに任せたので、私は野菜類を用意しないと。その前に、お風呂か。立ち枯れの拠点のところにあるお風呂をこっちに持ってきて、使ってもらうのが一番か。
私は小走りに結界の中の方へと向かうのであった。
* * * * *
デイビーは、走り去っていく五月の背中を無表情に見つめる。
「おじさま、おじさま」
足元にいる可愛い姪であるサリーの声に、目元を緩めて微笑む。
「……無事でよかったよ」
「うん、これ、おいしいよ」
サリーのエプロンのポケットに入っていたのは、紙に包まれている飴が3個ほど入っているジッパー付きの小さなビニール袋。そこから飴を1個差し出す。
「……これは?」
「あめよ! すっごくあまいの!」
デイビーは小さな透明な袋に驚き、しゃがみこんで飴ではなく、袋の方を手にする。透明なモノといえば、先ほどのコップもそうだ。そして今手にしているモノは、それよりも薄く柔らかい。
「はい、あーん」
サリーは飴の包装紙をむいてデイビーに差し出していた。白く丸い玉を、そのまま口にする。
「!?」
今まで口にしたことがないくらい柔らかな甘さに目を見開く。味は乳のようだが、それよりもずっと甘い。
「ね、おいしいでしょ? さつきさまがおやつにってくれたの」
「ああ、おいしいよ」
こんな高級そうな飴を、メイドの子供に渡す。しかも、かなり上等な服をこの子にも着せている。キャサリン様にしても、こんな山奥で手に入るようなレベルの服ではない。
それは、あのエイデンと言われた男の後を追った、奴隷と思われる獣人の子供らにも言える。
――あの五月という女性はいったい何者なのだろうか。
そんなことを考えながら、デイビーは五月が向かった方向に鋭い視線を向けたのだった。