作品タイトル不明
<公爵令嬢とメイド見習い>
キャサリン・エクスデーロ公爵令嬢は、つい先日、10歳の誕生日に婚約者のアーサー王子から貰った髪飾りに手を触れた。王子の瞳の色と同じロイヤルブルーの大きめなリボン。キャサリンは微笑みを浮かべながら、馬車の中から外の風景に目を向ける。
キャサリンたちは、半年ぶりに父方の祖父、前公爵に会うために、彼らの住む公爵領に向かっていた。公爵領に向かう道は、魔物も盗賊も出ない、整備された道だったのに、その日は違った。
「お嬢様! 絶対、中から出てはいけませんっ!」
ちょうど村と村の中間地点で、彼らの馬車は襲撃にあった。通いなれた道のため、護衛の騎士の数もいつもより少な目になっていたのが仇となった。
護衛騎士の言葉に従い、メイド見習いのサリーと一緒に馬車の中で縮こまっていた。
しかし、多勢に無勢、護衛たちはことごとく殺されてしまい、キャサリンとサリーも馬車の中から引きずり降ろされてしまう。
「おやおや、お人形さんみたいなお嬢さんだな」
「ヒッ!」
下卑た笑いを浮かべる男の顔を見ただけで、キャサリンは意識を失ってしまった。サリーはそんな彼女を守るかのように、小さな身体で抱きしめる。目には涙をいっぱいにして、男たちを睨みつけるが、男たちは気にせずに二人を紐で括ると、肩に担いでその場から立ち去った。
* * * * *
キャサリンが誘拐された3日後。祖父である前公爵から早馬が到着した。キャサリンがまだ到着していないということが伝えられ、その道の途中で、護衛たちとともに公爵家の馬車が変わり果てた状態で放置されていたのが見つかった。
その馬車の中には、キャサリンのドレスだけが残されていた。
「なんてことだ……」
エクスデーロ公爵の手には、ボロボロに破れ、茶色くくすんだ血痕で汚れたキャサリンのドレス。怒りのあまり、身体を震わす公爵。
「公爵様、嘆いている場合ではございません! すぐにでもお嬢様を探さねばっ」
そう叱咤したのは、公爵の乳兄弟でもあり、執事として仕えているサイラス。
「……くっ、わかっておるっ!」
「ドレスだけが残されているということは、まだ、お嬢様が生きていらっしゃる可能性がないとはいえません! 諦めてはなりません!」
サイラスは両手を握りしめながら、自分に言い聞かせるように呟く。
「きっと大丈夫です。娘のサリーが一緒にいるはずです。あの子の遺体もなかったというではありませんかっ。一刻を争いますっ」
公爵はくしゃりと顔を歪ませると、大きく頷いた。
* * * * *
時は少し遡り、キャサリンたちは盗賊たちの根城の牢の中にいた。
盗賊から奴隷が着るような貫頭衣を渡され、着替えさせられたキャサリンたち。そのうなじにはすでに『隷属の紋』がいれられていた。
「いいんですかい、頭」
配下の男が、前を歩く盗賊の頭に声をかける。
「せっかくの上玉だぁ、金になるのに、殺すなんて勿体なかろうが」
「いや、だって、お客の依頼はあの子供を消せってことだったじゃ……」
「他国に売りつけてしまえば、同じようなもんだろ。だいたい、もう『隷属の紋』が入っちまってるんだ。貴族のご令嬢としては生きていけまいよ」
「それはそうですがね」
配下の男は頭をガシガシッとかきながら、牢の方に目を向ける。
「まぁ、あの様子じゃ、長くは持たないか」
ボソリと男は呟くと、頭の後を追った。