作品タイトル不明
第147話 ユキの番
途中から、周囲の景色を見る余裕が出来てきた私。
人の手があんまり入っていないのか、高い木が密集していて地面に草もあまり生えていない。食べ物になりそうな植物もなさそうな感じ。鳥の鳴き声は微かに聞こえるかな? という程度。ここ、生き物、ちゃんといるのだろうか。
そんなことが頭によぎったところで、ビャクヤが斜面を駆け下りた。
目の前に広がるのは、ちょっとした広場で……焚火の後や、朽ちかけた小屋みたいなのと、ボロい荷馬車のようなのが置かれている。ここ、人が住んでいた場所なんじゃない? 地面には……もしかして血痕?
そして数頭の白い犬……ホワイトウルフが、落ち着かな気にウロウロと歩き回っている。あれがホワイトウルフの本来の大きさなのだろうか。とにかく、ユキがあの中ではバカでかい。そして、彼女の足元に横たわる一匹のホワイトウルフがいた。
『さつきっ!』
ユキの悲痛な声が聞こえる。
ビャクヤは、ユキの前に飛び込むように着地すると、私は急いで寝ているホワイトウルフへと駆け寄ろうとしたんだけど……着地失敗。ぺたりと尻もちをついてしまった。
――カッコ悪っ!
でも! あんな猛スピードのビャクヤに乗ってたんだもの! 腰が抜けても仕方ないじゃないっ!
『さつきっ、だいじょうぶっ?!』
「ご、ごめん、ごめん」
なんとか、四つん這いになりながらも、傷ついているというホワイトウルフへと近づいてみる。
傷は、前足の付け根部分に、長さ20cmくらいの線状の傷。けっこう長いし、深い。たぶん、舐めとったのか、そんなに血は出ていないけど、じくじくと滲んでいる感じ。
「酷いね……ビャクヤ、毒って言ってたけど、この傷は、この子だけしか舐めてない?」
『いえ、ユキが』
『わたしも舐めたわ! でも、私の方は何ともないの』
「え、じゃあ、毒とかじゃないのかな」
しかし、目の前のホワイトウルフは苦し気に長い舌を出して、荒い息をハッハッと吐いている。
「ん~~! とにかく、まずは水で傷のところを流すかっ」
私は『収納』からバケツを取り出し、水を手で掬って傷のあたりを洗い流したのだけれど。
グゥゥゥッ!
横になっていたホワイトウルフが、痛みのせいか、反射的に私に食らいつこうとして……ユキに頭を前足で踏まれて、押さえ込まれた。
『さつきに何するのっ!』
キューン……
……番って言ってたよね。
……もう、完全に尻に敷かれてるのかな。
持ってきていたタオルで、傷の周りを拭うと、今度は救急箱を取り出す。
「とりあえず、消毒液」
スプレータイプじゃないので、トイレットペーパーに浸み込ませて、傷を拭う。たぶん、痛いんだろうなぁ。ビクンビクンと動いてるんだけど、ユキに踏まれてるから、それ以上は動かない。
「痛いよねぇ、もうちょっと我慢してねぇ」
シュワシュワと傷に沿って、白い泡が出てくる。これ、ばい菌ってこと? とりあえず、もう一回新しいトイレットペーパーで泡のところを拭いとって、もう一度、新しい消毒液のついたのを、軽く拭う。今度は出てこない。
傷の上に効くかわからないけど、塗り薬を塗った。ガーゼでもあればよかったんだけど、仕方がないのでそのまま包帯を巻きつけた。
「こんなんで大丈夫なのかなぁ」
視線はいまだにユキに押さえつけられているホワイトウルフに目を向ける。相変わらず、荒い息のままだ。