作品タイトル不明
閑話:サントス
時は少し遡る。場所は、王都の冒険者向け宿屋『暁の星亭』。
客の食事を出し終えて、ようやく宿屋の従業員たちは自分たちの食事にありつける。
客のひいた食堂の片隅のテーブルに、オーナー一家とともに、従業員も集まっていた。この宿では、夕食時は家族と従業員、全員が同じテーブルにつくのが当たり前になっている。
「お疲れ様。今日は、サントスたちからの土産のビッグフォーンデアの煮込みだよ」
この宿の若女将、サントスの姉、オクサーナが言うと、従業員たちが嬉しそうに口々に「ありがとうございます」と声をあげる。
「いやいや、俺が狩ったんじゃないし」
「あんたが狩っているところなんて、想像できないよ」
「姉貴、酷い」
食堂は楽しげな笑い声があがる。
宿泊客もいることもあって、あまり煩くはできないが、食事をしながら情報交換しあうのが日課だ。
「で、今回はセッティさんだけなの?」
同じテーブルの端に座るエルフのセッティに、オクサーナが問いかける。
いつもなら『焔の剣』の面々と一緒に行動するのに、サントスとセッティという二人だけの行動と、食事も家族とともにしているので不思議に思ったのだ。
セッティはチラリとサントスに目を向ける。
「ああ。ドゴールさんが結婚するんだ。今はマックスとキャシディも一緒に、奥さんになる人の村にいる」
「まぁ!」
サントスの言葉に、オクサーナが嬉しそうな声をあげて、質問を続ける。
「お相手は」
「あ、前に、うちの宿に泊った人」
「そんなのたくさんいるじゃない」
「うーん、エクスデーロ公爵家からの迎えが来たお客さんがいたじゃない?」
「まぁ! あの黒髪の?」
「違う、違う! そんな恐ろしいこと言わないでくれ!」
オクサーナは五月をドゴールの相手と勘違いしたようで、サントスは慌てて否定する。
「恐ろしいって……じゃあ」
「子供の世話をしていた綺麗な人がいただろ。覚えてないか」
「覚えてるわよ! やだ、あんな美人が?」
目をキラキラさせているオクサーナ。父と母は、どんな人だったのかと、オクサーナに聞いている。従業員たちも互いに覚えているかと聞き合っている。
「あ、そうそう。俺、冒険者、辞めるんだ」
そんなさなかに、サントスが爆弾を落とす。
「えっ」
「えっ」
「ほ、本気かいっ!?」
「おやまぁ」
父、義兄、 オクサーナ(姉) 、母の順で声があがる。
「サントス兄ちゃん、本当!?」
「もったいない!」
オクサーナの息子《甥》と娘《姪》も食事の手が止まり、なんで、なんで、と聞いてくる。
「……辞めてどうするんだ」
宿屋『暁の星亭』の大旦那である父が、困惑した顔で問いかけた。
「うちを手伝ってくれるのかい?」
嬉しそうな顔なのは、大女将の母。期待の眼差しを向けてくるのは、オクサーナも同様だ。従業員たちも、どんな話になるのか興味津々に、耳をそばだてている。
「いや、そのぉ」
「なんだ」
言い澱むサントスに、セッティが脇腹を突いて、話をしろと促す。
「んん、えーと、ある所で宿屋をやろうと思ってる」
「は?」
サントスの言葉に、家族と従業員一同が固まった。