軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第912話 ユグドラシルのばあ様

エイデンが眠っていた山の脇を通り抜け、深い森が切れた。こんな森の中に、かなり広い草原ができていて、そこにズドーンと巨木が立っている。

ようやくユグドラシルの全体像が見える距離までやってきた。

「……はぁー。どんだけデカいのよ」

『デカいよねぇ』

風の精霊王様がのんびり応えるけれど、そんな言葉では言い切れない大きさなのだ。

幹の太さの縮尺が、わけわからないサイズ。この距離だから幹だとわかるけど、そばにいったら壁みたいに見えそうだ。それに、てっぺんなんて、ここから見上げても見ることができない。

――木じゃない。山だよ、山。

ウノハナたちが嬉しそうに駆けていくけれど、そんな彼らが米粒くらいに見えるって、どんだけ~である。うちの村にあるユグドラシルが、可愛らしいと思えるくらいだ。

私も彼らの後を追うように進む。

風の精霊王様やウノハナたちのおかげもあって、魔物に襲われることもなく、着実に進めた。

ただ、タブレットの『収納』に保存していた食料の備蓄がそろそろ怪しくなってきたのと、さくらんぼの苗木がなくなるなぁ、と思っていたところだったので、こうしてちゃんと到着できたことにホッとする。

その巨大なユグドラシルの周りでは、小さな光の玉がチラホラ飛び交っている。

――ユグドラシルの側だと言うのに、この大きさなの?

うちの村ではユグドラシルとともにある人型の精霊たちばかりを見慣れていたから、小さいままの彼らの姿に、胸が痛くなる。

魔法陣の影響がここまでとは、と、怒りを覚える。

『ほお、ほお、ほお、やっとおいでだねぇ』

「は?」

突然、老婆の太い声が、身体の芯を震わすように響いた。

『まっていたよぉ。せいじょどの~』

「え、え、え? だ、誰?」

キョロキョロ見回す私に、風の精霊王様がクスクス笑う。

『ほら、ほら、ここだよ?』

『五月、ユグドラシルのばあ様の声だよ』

「は?」

思わず、目の前の巨木へと目を向ける。

どこから声が出ているのだろうか、としげしげと見るけれど、幹に顔はないから、口もない。

「こ、こんにちは」

とりあえず挨拶だけでもと、声をかけると、巨木の葉がワサワサと揺れた。

『ほお、ほお、ほお。うちのまごがせわになってるねぇ』

「え? 孫?」

『ああ、こりゅうのぼうやがはこんでいったこだよ』

エイデンを坊や扱い。風の精霊王様に『ばあ様』と呼ばれるこのユグドラシルは、どれくらいの樹齢なんだろうか。

「いえ、うちも色々助かってますので」

『ほお、ほお、ほお。あのこからも、たのしくすごしているときいているよ』

ユグドラシルのばあ様が笑うたびに、葉っぱが揺れて、パラリパラリと落ちていく。思わず、もったいない、と思ってしまうのは、許して欲しい。

「え、あのユグドラシルと話をしてるんですか?!」

『ああ。わしらはちちゅうにねをはれば、どこにいてもかんじとれるし、はなしもできるのさぁ』

「す、すごい」

ユグドラシル、凄い。

『ああ、せいれいたちもよろこんでいるよ』

ユグドラシルのばあ様の言葉に周囲を見回すと、確かに光の玉が先程よりもキラキラと輝きだしたように見えた。